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第十五話

 剣を抜いたリオが突っ込んでくる。振り上げ振り下ろし、本気でサリアを仕留めにくる。

 杖の芯で受け止めて、押し返した。これがロイスなら完全に押し切られてたと思う。


「あーーーー!」


 剣の当たったところが欠けている。買い替えたばかりの杖だったのに、結構高級なものだったのに。


「これ、欠けたところから折れたらどうするのさ!」

「なによ、あんたがかかってこいって言ったんでしょ!?」

「まずフィールドを整えるのが先でしょ!? 防音対策とか、器物破損対策とか!」


 喋ってる間も、リオが剣を振ってくる。首筋や肩口を狙っての袈裟斬り。喉元を狙っての一点突き。足元を狙っての払い斬り。そのすべてが、実戦で振るわれる技だった。

 正直な話、平凡な魔術師なら今ごろ死体になって転がってると思う。Aランクの冒険者で修羅場もそれなりに経験してるからこそ、後衛でありながら前衛職の動きについていけていた。


 いや、ついていくのがやっとなのだが。


「あーもー、『ドーム』!」


 唱え、杖を構え、透明の膜のようなものが包み込む。風がやみ、街の喧騒が消えた。

 この中で起こったことは、ある程度は認識されなくなる。

 例えば、建物に傷をつけたくらいでは修復される。


 しかし、決して万能ではなく、人を殺せばその殺した事実は戻らない。


 これも、ロイスに夜這いをかけようとして音を消すために編み出した技だ。


 基本的に自分の魔法がロイス軸で編み出されているのが、本当に恥ずかしい。こんな状況でなければ、一人でベッドの上で暴れていただろう。


 リオの攻勢は止まることがない。剣の先まで殺意がこもっているように感じた。

 しかし、彼女はただ言葉にならない感情をサリアにぶつけたいだけなのだろう。だったら、満足するまで付き合ってやるまでだ。


「どうしたのよ! 魔法を打ってこないの!?」


 あからさまな挑発。しかし、彼女の息は切れ始めていた。

 怒っているからか、いつもよりエネルギーの消費が激しいのだろう。剣の振りも鈍り始めている。


「お望みならば!」


 杖をくるりと一回転させて、天に突き上げた。


「『ウォーター』!」


 普段は水圧で相手を押し殺す技。しかし、サリアはわざとリオの頭の上に留まるように水玉を作る。

 重力に逆らう水は、彼女の頭にかかる。全身がびしょ濡れになったリオは、無言でこちらを見ていた。


「どう? これで、頭が冷えたかな?」


 彼女の髪を濡らしていた水が乾いていく。魔法で作り出したものは、マナへと還元されて周りに霧散していくからだ。

 それでも濡らされたという屈辱は収まらないようで、彼女は剣を強く握りしめて肩を震えさせていた。


「ぶっっっ殺す!」


 彼女のそのひと言に、血管が切れるような幻聴が聞こえた。



※※※※※※※※※※



 倒れているのはリオの方だった。呼吸は荒く、胸の上下が速い。大の字で寝転んだまま、彼女は悔しそうに地面を一回殴った。

 

 サリアは杖を持ったまま立っている。多少息切れはしているが、疲れが出てるほどではない。


「あーくそ、くそくそくそ」


 悔しそうにこちらを見上げるが、もう動く体力がないのだろう。寝転んだままリオは動こうとしない。


「満足した?」

「……するわけないでしょ」

「そりゃそうだ」


 身体を動かすだけで気分が晴れるなら、もうとっくに割り切れている。

 彼女は三年間家の事情から逃げ続け、そして今それがまた目の前に現れたのだ。


 現実に再び引き戻された人間は、今度は現実を見ながら進むしかない。リオはそれほど器用な人間ではないだろう。


「……でも、なんか悩んでるのが馬鹿らしくはなった」


 息を大きく吐きながら、彼女は自嘲する。


 サリアが手を差し出すと、始めはジッと見つめるばかりだった。しかし、諦めたように大きく息を吐いてから、その手を握り返してくる。


 彼女を力を込めて起こす。

 立ち上がったリオは、大きく息を整えてから剣を拾った。そのまま直すと、夕日を見つめるようにまた手すりにもたれかかる。


 サリアは『ドーム』を解除してから、隣に並ぶように手すりに手をついた。


「……私の家のことを聞かないの?」


 尋ねられ、首を振った。


「話したくなければ別にいい」

「あんた変わってるわよね」

「そう? 私はただの十六歳の女の子だよ。ちょっと魔法が得意なだけのね」


 その言葉に、リオはクスリと笑う。

 彼女が“本当に笑っている姿は”初めてみたかもしれない。


「いいわ、話してあげる」


 どこか覚悟を決めたように彼女は手すりに手をついたまま身体を起こした。


「そのかわり、途中で聞き流すのは禁止だから」


 念を押され肩をすくめると、リラは口を開く。


「私は──リライト・スティールバック。とある町の領主貴族の次女として生まれたの」


 その名前の意味を考えて、サリアは黙る。


 リライト──書き直し。その名前をつけた親は、彼女にどんな人生を背負わせたのだろうか。

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