第十四話
取り敢えず話を一通り聞いて、今日はお引き取りを願った。
何か恨めしげな目で見ていたが、これ以上怒るとことは負けを認めると思ったのだろう。素直に引き下がってくれた。
なんで自分がこんなしんどい役目をしなければならないのか。大きく肩を落としてため息をつく。
「お疲れねぇ」
宿屋の待合場に戻ると、ココットがまず笑顔で近づいてくる。
「本当にそれ……!」
「ふふ、今の立ち位置は不満?」
「少なくとも、私じゃなくてリーダーの仕事でしょこれ」
さすがに今回ばかりは文句を言わせてもらう。サリアがやるべきことではないからだ。
こういうことには頼りにならないロイスが悪い。
「まぁまぁ、人は役割分担が大事よぉ?」
「私の役割重くないっすか!? ただの魔術師ですよ私!?」
「あまりの面倒くささにキャラが崩れてるわねぇ」
困った顔をして頬に手を添えるココットを見て、サリアは咳払いするように冷静を取り戻した。
「それでリオは?」
「バルコニーにいるわぁ。ロイスがついてるけど、まぁうまくはいってないと思うわぁ」
「……だろうね」
ロイスは寄り添われる人間である。だから、寄り添うのには向いていない。
前世の知識あったライトノベルには、ヒロインと寄り添うことで距離を縮めるなどはあったが、彼は完全にそれ系の主人公像ではなかった。
つまり、その役目を任されるのは──
「はあぁぁぁあ……」
壁に手をついて肩を落とした。
「……おっきいため息ね」
「うん、世界の残酷さに思わず嘆いてた」
「懺悔するぅ? これでもシスターの資格だけは持ってるわよぉ?」
「やめとく、なんか変な神に憑かれそうだから」
ひどーいとココットが笑顔で言うと同時に、マイが戻ってきた。
「マイ、リオのお父さんはどうだった?」
「取り敢えず、違う宿屋には戻った。多分、今日は近づかない」
「そっか」
その言葉を聞いて、サリアは覚悟を決めた。
パーティーメンバーの一人として、彼女をこのまま放っておくわけにはいかないだろう。
「マイはここで待ってて」
「でも……分かった」
彼女の返答を聞いて、頭を撫でる。マイは少し嬉しそうに声を漏らした。
「それじゃあ行ってらっしゃ〜い」
一方のココットは、相変わらず他人本位に一線を引いていた。
※※※※※※※※※※
バルコニーに行くと、まず手すりにもたれかかるリオの背中が見えた。その後に、少し遠くで距離感を測りかねているロイスと目が合う。
「サリア、よかった」
一体なんの良かったなのか。本当にロイスは持ち上げられて生きてきたんだなと分かる。
例えるなら横に立つのではなく、前を歩くだろうか。
しかし、今のサリアに必要なのは追いかける背中ではなく、話を聞いてくれる相手だ。ロイスがどんなに声をかけても、彼女は本音を漏らさないだろう。
「ここは任せて、ロイスはココットたちのところに戻ってて」
「しかし、何か悩んでるなら僕が聞かないと」
「それができたら、今この状態になってないでしょ?」
「……う、分かった」
部屋に戻るまでの間、ロイスはちらちらと何回も振り返っていた。
彼の姿が見えなくなると、サリアは息をつく。
姿勢を整えてから、リオの横に立った。手すりを掴んで何も言わずにその場にいる。
「……何の用?」
沈黙に耐えられなくなったのか、リオのほうから口を開く。
「地方貴族の娘だったんだね」
「ふん、捨てた過去よ。あのクソオヤジがいろいろ勝手に決めたから勝手に出たまで」
「うん、でも似たもの親子だと思ったけどね」
「はぁ!?」
その言葉に腹が立ったのか、額に青筋を浮かべて睨む。
「私を貶しに来たの!?」
「いや、話に来た」
「ほんっと舐めてるわよね!」
その言い方、あなたの父もしてましたよ〜。もちろん、そんなことは口を出さずに笑みだけ見せた。
「何怒られて笑ってんのよ!?」
「いや、ますます親子だなって思って」
「もう腹立った! ぶっ殺す!」
彼女が剣を抜いて、向けてくる。
「最初からあんたのことが気に食わなかったのよ! ずっとロイスを独り占めしてたかと思えば、いきなり距離を取り出して! さらに自分はわかってますよって面をしてさ!」
彼女の怒りの言葉は止まらない。
「お前は私の親かってんだ! 私の人生は私のものだ! 私が勝手に決めさせてもらう! 好きな人といる権利も奪わせない! 私の気持ちを指定する権利も奪わせない! 私は好きに生きる!」
「うん、やっぱり似たもの親子だね」
権利権利と主張するのは、独りよがりでしかない。
権利は互いにぶつかり合うものだ。だからこそ、世の中には折衷案というものが存在する。
皆が権利を主張して動き出したら、世界は簡単に壊れてしまう。
サリアは自分の権利を主張しない。代わりに相手の権利も肯定も否定もしない。
ただ、自分が住みやすい環境を選ぶだけ。
「剣を振り回してスッキリするなら相手をしてあげる」
杖を出し、突きつけた。
「たかが魔術師が剣士に勝てると思うな!」
彼女の吠えが、夕方の空に木霊する。




