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第十三話

「だから、私はもう関係ないって言ってるでしょ!」


 響き渡るのは、リオの声。通り安すぎるその声は、周囲の注目を集めている。

 彼女の足にすがりつくのは、中年のやけに小綺麗な男であった。


 ロイスは困った顔で、二人を見比べて対応している。しかし、はっきりと踏み込まないあたり彼らしいなと嘆息をついた。


「これ、どういう状況なの?」

「私も断片的にしか分からないわぁ。どうやら、リオさんの親族らしいけどもぉ」


 リオの親族。その話を聞いて脳裏によぎるのは、村での会話だった。


「は、話でも聞いてくれリオ!」

「だから、私はあんたの子どものリオじゃない!」

「なんでそんな嘘をつくんだリオ!」


 なるほど、大体は読めた。


「マイ、取り敢えずリオからあの男の人を優しく引き剥がして」

「分かった」


 淡々と答えた彼女は、迅速に実行した。



※※※※※※※※※※



 宿屋の応接室を借りて、男の人と話す席を設けた。

 リオがいると話が進まないからと、ロイスが面倒を見てくれている。少なくとも、彼の言うことは聞くだろうという判断からだ。


 丸机の上に湯気が立つのは、ココットが淹れてくれたコーヒー。サリアと男性の前に一杯ずつ置かれている。

 マイは着席することを拒否して、部屋の端っこで男性を見張るように立っている。


「それじゃあ私はリオさんたちの様子を見てくるわねぇ?」

「うん、お願い」


 返事を聞くと、ココットは笑顔で手を振って部屋から出ていった。

 一瞬の静寂が辺りを包み込む。男性はコーヒーの湯気を見つめるばかりだった。


「それで、あなたは誰ですか?」


 取り敢えず冷静に、サリアの方から話をきり出す。


「リオの父親だ」

「あーはい……」


 どうやら名前は言いたくないらしい。それだけで、面倒だなぁと心の中で肩をすくめる。


「私はリオさんのパーティーメンバーのサリアといいます」

「……」

「えっと、リオさんには何の用で?」

「……お前たちには関係ないことだ」


 話に応じる気はないらしい。これは完全に相手を格下だと扱っている証拠だ。

 だからといって、この男には感情的にぶつかったら逆効果だ。


「えっと、リオさんは私たちのパーティーメンバーです。あなたが引き取るにしても、脱退理由を明確にしていただかないと、処罰対象になります。その場合の損害請求はあなたにいきますが良いですか?」

「……ちっ」


 彼は苛立つように舌打ちをしてから、椅子に深くもたれかかった。本当に嫌そうにため息をついてから、口をポツリと開く。


「彼女を跡取りにする」

「なんのですか?」

「そこまでは関係ないだろ?」

「いやいや、跡取りにするから返してくれって言われて彼女の感情を無視した決断はコチラにはできませんよ」


 男が苛立つように貧乏ゆすりをし始めた。

 交渉の場で相手に焦りを見せるのは痛恨のミスと思わないのだろうか。それだけで、彼が権威だけを振りかざしてきたものだと分かる。


「粋がるなよ小娘」

「粋がってませんよ。事実確認して、あなたに正当性があればリオさんを引き渡す。それだけです」

「……政略結婚に出させるためだ。わかるだろ? リオが安心して暮らせるためだ」

「はいわかりますよ。結婚して子どもを作るっていうのは未来を残すってことですもの」


 自分はそんな未来は今は想像できないが。


「……だったら、引き渡せ。これで正当性が担保されただろ?」

「いやいや……いやいやいやいや。ぜんっぜん担保されてないですよ」

「なんだと?」


 彼の額に青筋が浮かぶ。それでも、サリアは冷静に続けた。


「そもそもの話、あなたの言葉には矛盾があるんです。私たちがリオさんとパーティーを組んだのはもう三年にもなります。その三年間、まったく見向きもしなかったじゃありませんか。なのに、今ごろになってリオさんにすがるのはなんでですか?」

「……っ」

「リオさんに縋らざるおえない状況になったからではないですか?」

「小娘が大人を舐めるな!?」


 怒り、立ち上がった。瞬間、彼は机に叩きつけられる。マイが腕を取り押さえたのだ。

 彼に出されたカップが割れて、コーヒーがこぼれた。

 

 サリアは長いため息をついてから、自分のコーヒーに口をつけた。

 ブラックの苦さに思わず泣きそうになりながらも、何事もなかったようにそっと戻す。


「今、あなたは正当性とは真逆のことをしました。その行動が出るってことは、あなたは自分が間違ってるって認めるようなものですけど良いですか?」

「暴論だ! 俺は家族としての権利をそのまま主張してるだけだ!」

「じゃあ言いますけど、リオさんにも“家族として、断る権利はありますよね”?」


 その言葉を聞いて、暴れていた彼は大人しくなる。

 マイに目を合わせると、心配そうな視線をこちらに向けた。


「大丈夫だから」


 その一言を出すと、マイは彼から手を放す。

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