第十二話
「私はいかないよ」
そのサリアの一言で、ロイスの表情は曇る。リオは鼻を鳴らし、ココットは笑顔で見ている。
「なんでだよ! 困ってる人がいるんだぞ!? 放っておけないだろ!」
「うん、その気持ちは否定しない」
「だったら──」
「私たちが行って何とかなるなら、あそこまで大規模な討伐隊は組んでないよ」
そもそもの話、自分たちはAランク冒険者──なだけである。世間一般では強い部類に入るし、そこそこ名も知れている。
だが、それだけだ。
もっと強い冒険者は山ほどいる。そして、残酷なことに即戦力としてカウントされているなら、ギルドのほうから直談判があるはずだ。
行ったところで、ただ現場を混乱させるだけである。
「つっめたいわね〜」
リオの言葉に、サリアは正直に頷く。
「うん、冷たいとは思うよ? でも、感情的に行って今までどうなってた?」
今まではロイスの決断はパーティーの総意だった。サリアも反対はしなかった。
しかし、その度に深く傷ついて、助けられなかったことに落ち込んだ。死にそうになった目なんて数え切れないほどある。
よく、今まで生きて来れたなと思う。
「……分かったサリアには頼まない。その代わりマイは連れて行くよ?」
名前を出されたマイは静かに首を横に振る。
「私も行かない」
「なんで……!?」
「サリアのほうが正しいと思ったから。それだけ」
彼女の答えに、ロルフは拳を強く握った。細く震えている。
その彼の腕にリオが抱きついて慰めている。あからさまだなと、サリアはパフェの続きを食べ始める。
「私も今回は行かないわねぇ」
そこで手を上げたのがココットだった。今日一番の意外な発言だ。
「ココットまで!?」
「だってぇ、実際サリアの言ってることのほうが筋は通ってるわぁ? あなたたちが飛び込んでどれだけきざついてるか知ってるぅ?」
その視点は、一歩後ろに引いて見てる回復役だから出る視点だろう。実際、“ココットがいなければ、死んでいた場面は多い”。
「サリアさんとマイさんも行くなら私はついていくつもりだったけど……。これじゃあ、火に飛び込めって言ってるようなものだわぁ」
「……」
ココットの言葉に、ロイスは小さく唸って頭を俯かせるしかなかった。
体の震えも大きくなっている。
「分かった……やめとく」
絞り出した声は、悔しさやら怒りが混ざっている。しかし、一番の感情は惨め……だろう。
離れていく背中は、どこか寂しそうでもあった。
「私はロイスの味方だからね!」
リオが必死に慰めている。その姿を見て、小さくため息をつく。
「本当、サリアさん変わったわねぇ? 頭の回路がイカれちゃったぁ?」
ココットは笑顔のまま、頬に手を当てていた。こちらを見る目は、どこか好奇心の光が宿っている。
「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」
「ふふ、曖昧に言うわねぇ」
「むしろ、今までの自分がおかしかったんだと思う」
ロイスへの恋愛的な好意は明確に減った。これは完全に前世が男だったという視点が加わったから。しかし、驚くほど下がった時点で見れるのは、どこから来るのか説明はつかない。
もしかしたら、サリアは元々こういう人間だったのかもしれない。
恋は盲目とは、よく言ったものだ。
「それじゃあ私はロイスさんを追いかけるわねぇ? サリアさんが身を引いた今、落とす絶好のチャンスだものぉ」
「……はいはい」
楽しそうに走っていくココットの背中を、笑って送り出した。
「私、ココット苦手」
マイが唇を尖らしながら呻いている。
「気持ちは分かるけどね……」
多分、色々と見透かされている気がするのだろう。
守りに徹してきたマイにとっては、一番やりにくい相手だ。
「でも、悪い人ではないから」
「それはわかってる」
彼女の正直な答えに、サリアは笑顔を返した。
遠くからは笛の音が聞こえる。大規模の討伐隊が出発するときの音だ。
一年に数回は聞こえるこの笛は、街の人たちには不吉の音と言われていた。
魔物が活性化し、人が死ぬという合図だから。
しかし、冒険者や商人の間では幸運の音と言うものもいる。
金回りが良くなる。素材がよくとれる。何より、新たな土地の権利を主張し合う人間ができる。
意味するところは、経済が回り始める象徴とされている。
きっとロイスのように純粋な正義感から討伐隊に名乗り出たのは数少ないだろう。だからこそ、ロイスの考え自体は評価していた。
ただ、彼がすべてを背負える器ではないというだけで。
街の喧騒が落ち着いてくる。日常の空気が戻ろうとしていた。
このあとは買い物を楽しんでゆっくり体を休めよう。そしてまた明日から依頼に集中しようと、考えていた。
「サリアさん!」
そんなときに、ココットが走ってくる。思わず大きく揺れる胸に目が行きがちになって、頭を振った。
「どうしたの、慌てて?」
「リオさんがちょっとトラブルに巻き込まれて」
リオの性格から見てトラブルは日常茶飯事だ。それを踏まえたうえで慌てているのは、ただ事じゃないだろう。
マイと視線を見合わせる。彼女が頷いたのを合図に、サリアは立ち上がった。
机の上に代金を置いて、ココットの案内で現場に向かう。




