第十一話
街に帰ってきた。村の静けさと違った賑やかさは、城壁の門を越えるとより一層大きくなる。
頂点を過ぎようとする太陽の光を浴びながら、サリアは大きく伸びをした。
依頼が終わったあとはいつも清々しい気持ちになる。
「それじゃあいつも通りここで解散で、集まるのは明日また宿屋でいいかな?」
「ん、じゃあ私がギルドに報告しておくね」
「分かったサリア。任せたよ」
ロイスの答えに、サリアは軽く頷いた。
「じゃあ、ロイスは私と買い物行こ!」
「いえいえ、まずは教会に報告が先よぉ」
いつものように二人に挟まれて、ロイスは連れて行かれてしまった。
忙しなく動く街中の情景の中に、サリアは取り残される。
と思えば──マイは横でずっとこちらを見ていた。
「マイは行きたいところないの?」
「私はサリアといたい」
即答に思わず「んー……」という微妙な声を漏らしてしまった。
「ダメなら、どこかで暇つぶしてる」
「だ、ダメじゃないよ。全然、うん……」
声が萎んでいくのは、これはもう戻らないなと悟ったから。
ロイスに懐いてたときも、彼の近くにいようとはしてた。彼の膝の上に座ったりもしてた。しかし、四六時中ベッタリと言うのはなかった。
きっとマイは本当に自分に心を開いてしまったのだろう。
彼女の心を縛りつけるのは本意ではない。しかし、彼女の想いを踏みにじるのも本意ではなかった。
「分かった。報告に言ったら、何か食べに行こうか?」
尋ねると、彼女はコクリと頷く。心なしか、嬉しそうに感じた。
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ギルドに戻ると、中は少し騒然としていた。どこか冒険者たちの熱気が上がっている気がする。
剣や斧、弓などの武器をそれぞれが調整している。
どこか張り詰めているような熱気があった。
サリアは少し気になりつつも、ギルド受付の一つに並んだ。
順番が来ると、優しそうなお姉さんが対応してくれた。
「ロイスのパーティーのものですけど」
「あ、はい〜。先に連絡は届いてます〜」
いくつかのやり取りをして、依頼達成金をもらった。過不足ないことを確認すると、懐にしまう。
ところで、とサリアは周囲を見回しながらギルド職員に尋ねる。
「なんか慌ただしいですね」
「……あ、分かります〜? 少し遠くの町が魔物の群れに襲われたんですよ〜。取り敢えず今、救援に送ろうとしてる状態です〜。もう、色々と大変なんですよ〜」
そんなことがあったのか。
サリアのローブをマイがギュッと握るのがわかった。言外に放っておけないと宣言しているように感じる。
「私たちも何か手伝うことありますか?」
「ん〜、あなたたちは依頼から帰ってきたばかりだし、休んでほしいですね〜。後発隊として声をかけることはあると思います〜」
「……そうですか」
依頼はそれほど難しくなかったし、村で休息も十分取ったので疲れてはいない。しかし、大きな討伐隊に加われるかと言われれば答えはノーだ。
これだけ騒がれているのなら、少なくとも万全のものでないと足を引っ張るだけだ。
ここで物語の主人公なら、有無を言わさずに飛び出すんだろうけども。
「それでは、私たちは今日は休ませてもらいますね。また何かあったら言ってください」
「はい〜。お疲れ様でした〜」
受付の人とのやり取りを終えてから、騒がしいギルドをあとにするように出た。
街の中の雰囲気もさっきと少し変わっているような気がする。それは不穏な何かをサリア自身が感じているからだろうか。
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「本当に良いの?」
カフェのテラス席について、パフェに舌鼓を打っている。口の中に広がる甘い味覚に、思わず感極まりそうになった。依頼終わりの身体に染み渡る。
そんなときに、向かいに座るマイが無表情ながらもどこか心配そうだ。
「私たちはAランク。加わったほうがいいと思う」
「戦力は多いほうがいいっていうしね。加われるなら私も加わったほうがいいと思うよ」
「だったら」
顔を上げる彼女の口に、生クリームの乗ったスプーンを差し込む。思わず目を見開いて、マイは口をモゴモゴと動かしていた。
「私は加われるならって言ったよ」
スプーンを引き抜くと、どこか納得していないような視線を見せている。
「そもそも、もう大規模討伐は開始されてる。戦略や連携などの確認も終えてる。付け焼き刃の私たちが入ったところで、どこかズレが起きるのが目に見えてる」
だから、職員さんも遠回しに断った。何か手伝えることがあれば、サリアが尋ねた時点で肯定したはずだ。
「そっか……」
まぁ、この場合、ロイスなら我先にと飛び出し解決しようとするのは目に見えているけども。
ギルドにサリアが行って正解だった。そしたら今頃──
「サリア、マイ! 町を助けに行くよ!」
その一言を言って引っ張ろうとしてくるだろう。
「……え?」
聞こえた声に、思わず振り返る。別れたはずの三人がそこに立っていた。




