第十話
鳥のさえずりが聞こえた。かと思えば鶏の鳴き声で一気に目を覚ます。
サリアたちは村で一晩過ごすことになって、泊まることになった。そのことを遅れて思い出した。
布団から上半身を起こして伸びをする。大きなあくびをして、まだ眠たい目をこする。
「うー寒……」
昨日は思ったより疲れていた。服を脱いだらそのまま寝てしまった。
下着姿で寝るのはさすがにダメだった。腕を擦りながら体を温めた。
「おはよう、サリア」
「うん、おはようマイ」
自然に交わされた挨拶に、一拍遅れて頭の上にハテナを浮かべた。
はて、部屋は一人ずつ別々にあてがわれてたはずだけども?
声のしたほうを見ると、マイが椅子に座ってナイフを研いでいた。
「はてさてなんでマイがここにいるの?」
素直な疑問を、ついサリアは口に出してしまう。
「ん、仲間を夜襲から守るのは当たり前」
「いやいや……いやいやいやいや」
マイの顔が、私何かしちゃったと語っている。
うん、何もしてない。何もしてないけど、常識はズレてる。
「……もしかしてロイスの部屋も毎日入ってたりしたの?」
「……? ロイスは一人で守れるでしょ?」
──あぁ、この反応は私だから部屋にいたのか。
うん、これは本当に大変な子に懐かれてしまったかもしれない。
しかし、純粋な瞳に何もいう気にはなれなかった。
彼女が楽しそうならそれでいっかという結論に落ち着いた。事実、彼女は少し鼻歌交じりにナイフ研ぎを再開していた。
そんなマイを横目に、サリアは着替えを開始する。
下着を脱ぐと、簡潔に濡れた布で体を拭き始める。その姿を、マイはジーッと見つめてくる。
同性とはいえ、さすがに堂々と見られると気になってくる。
「あの、どうしたの?」
「サリアの胸の形綺麗」
ド直球な言葉に、思わずガクリと肩を落とした。しかし、彼女はどうにもこうにも悪気がない。そこがマイの良いところでもあり悪いところでもあった。
「私、胸小さいから」
「うん、私もそんなに大きくはないと思うよ?」
「でも、サリアは綺麗だから羨ましい」
ムーっと唇を尖らせながら、マイは自分の胸に手を当てていた。
どうやら彼女も彼女なりに女の子らしい悩みを持ってるんだなと思う。
比べて今のサリアはそんな悩みとはほぼ無縁だった。それはやはり、前世の記憶が蘇ったことが強いのだろう。
前のサリアはよくココットに嫉妬していたのを覚えている。
下着を履いてから、服を着る。シワを整えてから、いつものローブに袖を通した。
サリアが着替えている間、マイはずっとこちらを見つめたままだった。
丁度服を着替え終わったとき、ノックが聞こえる。返事をすると、ココットがドアを開けた。
「マイさんが見当たらないらしいのぉ」
どこか困り顔で一言。
その言葉に、サリアは無言でマイの方を向く。
ココットが視線追うように顔を向けると、頬に手を当てながら「あらぁ」と声を漏らした。
「こんなところにいたのねぇ」
その言葉に、マイはただ首を傾げるだけだった。
※※※※※※※※※※
帰り道、街までの同じ道のりを歩いていく。相変わらずリオはココットの煽りにまんまとハマって争っている。
そして、マイの位置はサリアの横に固定されてしまったため。
「サリアちょっといいかな?」
前方の争いからいつの間にか逃げてきたロイスが、彼女の横についた。
「んー……なに?」
「いや、僕ってサリアに何かしたのかなって?」
「どうして?」
「ほら、なんか……距離が遠ざかった気がして」
縮まるのは気づかないくせに、遠ざかったのは敏感なんだなと、心の中で思う。
それが、中心にいる人の視点というものなのだろうか。
サリアは指に顎を置きながら空を見上げる。
「別に“何もしてないよ”」
「……それなら良いんだけどね」
少しホッとしたロイスに、リオが腕に抱きついた。
「ちょっと! 油断も隙もないんだから!? やっぱり、サリアもライバルなの!?」
「それは完全に勘違い」
否定したのだが、フンと鼻を鳴らしてからロイスの手を引っ張っていってしまった。
「……ロイス、滑稽」
「こら、マイ」
ぼそっと言った言葉にサリアは反応する。
「ロイスの良いところでもあるんだから、頭ごなしに否定しないの」
「……ごめんなさい」
怒られて落ち込んだのか、本当に泣きそうになりながら顔をうつむかせた。唇を尖らせて、ギュッとサリアのローブを握る。
「大丈夫、怒ってないから」
「本当に?」
顔を頷かせると、彼女は安心したように息をついた。
まぁ、マイの言いたくなる気持ちも分からなくはない。しかし、彼が気づかないことでパーティーが回ったいたのもまた事実だったのだ。
むしろ、自分の立ち位置が変わってしまったことで引っ掻き回していることになる。
ロイスは悪くない。どちらかというとサリアの問題である。
だからといって、もう生き方を戻せるかと言えば、戻せなかった。
サリアはもう、自分の意思で選択したいから。




