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第一話

 自分の名前はサリア・マルエット。この世界では強パーティーの冒険者をやっていて、魔術師として少し有名だ。

 なぜ、そのような確認作業をサリアはしているかというと、頭の中に“かつて日本という国で男子高校生だった”自分の記憶が流れているからだ。


 鏡に映るのは、茶色い癖っ毛髪の女の子。赤い瞳に薄い唇。愛嬌のある可愛い顔だと自分自身でも思う。

 胸は……少し物足りない。体全体の線は細く腰はしっかりとくびれている。白い肌は毎日ケアを欠かさなかった証拠だし、キメの細かさや潤いもある。


 全体的に茶色く赤いラインの入ったローブを羽織ると、胸の中で安心感が募る。自分はできる魔術師なんだと少し自信が持てる。


 自己認識は変わりなかった。体の違和感もない。十六年以上この体で過ごしているのだ、今さら男子高校生の記憶が蘇ったところで慣れてしまっているからなんともない。

 ……なんともないはずだ。


 ノックが響く。思わず心臓の音が大きくなり、肩を跳ねさせた。


「ひゃ、ひゃい?」


 噛んでしまって、思わず変な声が漏れる。


 ドアが開かれると、一人の女の子が立っていた。チームメイトのマイだ。

 白いショート髪に少しつり目の青い瞳。ひょっこり頭のてっぺんにはアホ毛が伸びている。

 サリアより少し背が小さく、体型も幼い。それでもへそ出しスタイルのシャツにショートパンツという姿が似合っているのは、彼女が元盗賊の女の子だからだろう。


 サリアと目が合うと、彼女は口を開く。


「もうみんな集まってる」

「う、うん……わかった。すぐ行く」


 それだけ言うと、マイは納得したように頷いてからドアを閉めた。


 うん、自分は変わりない。サリアはそう言い聞かせながら、部屋から出る。



※※※※※※※※※※



 サリアたちは冒険者として拠点にしている宿屋がある。いつもそこに泊まり、下にある談話場に集まって今日は何するか話し合う。

 いつもと変わらない一日だと、心の中で自身に言い聞かせた。


「おはよう、サリア」


 階段を下りた先とき、聞こえた男声に喉の奥から掠れた声が漏れそうになる。

 いつもの場所で、見知った四人の人間が座っていた。


 一人は豊満な肉体をこれでもかと見せつけている僧侶。元教会の人間で、今はこのパーティーの回復を担当してくれている。

 金色ロングヘアーはゆるふわで艶がある。少し柔和そうな翠色の瞳は、人を包み込むような優しさがあった。

 彼女はココット。頼れるお姉さんだ。

 

 ココットの対面に机に突っ伏すように座っているのは、赤色ポニーテールの少女。軽装鎧を身をつけて、猫のようにきつい目で見つめてくる。黄色い瞳はやや好戦的である。

 彼女は戦士リオ。前衛を担当してくれていた。


 そして、とサリアはゆっくりと上座にいる人間を見る。マイを膝の上に乗せている男だ。

 ロイス・ノーメント。このパーティーのリーダーであり、みんなを引っ張っる役目。黒い短髪は少し跳ねている。青い瞳は人付きが良さそうな光を宿している。先ほど挨拶してくれたのも彼だ。

 サリアとは幼馴染で自分はこの男が好き──だった。

  

 今はいつものように彼の顔を見ても心拍数は上がらないし、振り向かせようという気にもならない。

 なんというか、理由を探す気にもならないほど、恋愛感情が消えてしまっている。


 それぞれがサリアの顔を見て挨拶してくる。内心を悟られないように、彼女は笑顔で挨拶を返した。


「もう大丈夫ぅ?」


 少しのんびりとした口調で、ココットが尋ねてくる。そこで思い出した。


 そうだ、自分は昨日モンスターと戦っている最中に魔法を暴発させたのだ。気絶して、そのまま──


 なぜ暴発させたかはわからないが、身体的には問題ない。笑顔を見せて、手を振った。


「大丈夫、少しミスっちゃっただけ」


 そう言いながら“ロイスの向かい側に座るサリア”を、仲間の全員がジッと見つめる。

 その視線を受けて、彼女はたじろいだ。


「えっと……何?」

「いや、いつもならロイスに擦り寄ってるじゃん?」


 リオの言葉に、半拍遅れて「あっ……」と声を漏らす。


 そう、昨日までの自分は、ロイスに振り向いてもらおうと必死にアピールをしていた。幼馴染ではなく、一人の女として見てもらうために。

 わざと腕に絡みついて密着させるようなこともやっていた。

 しかし、あの鈍感男はどこまでも気づかなかったのだ。人が胸を押し当ててるにも関わらず。

 

 思えば、なんでこんな男を好きになっていたのかはわからない。頼りになると言えばそうだと答える。


「やっぱり、少し調子悪いのかしらぁ?」

「サリア……へん」

「無理するといいことないぞ?」


 ココット、マイ、リオの順番で指摘されて、空笑いが漏れる。


 ロイスに視線を合わせると、微笑ましそうにこちらを見つめていた。

 あぁ、やはりこの男は分かっていないんだなと、再確認する。


 もう一度いう。サリアはロイスへ恋するのは、もう二度とないだろう。

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