8話「本性を知れば誰もが嫌う」
クリスティアの魔法薬店に嫌がらせをした帰り道、ライトアップは女性を連れて道を歩いていた。
人通りの少ない道。しかし彼は敢えてそこを選んだ。というのも、その道が家まで帰るための最も近い道だったのだ。いつも人があまりおらず、緑だけはやたらと深く、不気味という単語が似合うような砂利道。しかし彼はその道をよく使っていたので、その日も当たり前のようにその道を使って帰ることを選択したのである。
「怖いですぅ……」
通り慣れていない女性はその不気味な通りに恐怖を感じている様子だ。
だがそれは誰だって同じだろう。
どんな人であってもそう。
あまり知らないうえ薄暗く怪しげな道を通る時というのは、心なしか不安になるものだ。
「大丈夫。いつも通ってるところだから。心配しなくていい」
「そう、なんですかぁ……?」
「ああ。怖かったら俺にぴったりとくっついておくといいよ。そうすれば少しは落ち着くだろうから」
「はい……分かりましたぁ、ありがとうございますぅ……」
「やはり可愛いなぁ、君は。こんなことで怖がるなんて。もう、本当に、好きだよ。俺は元々そういう女の人が好きなんだ。なんといっても、そういう女性は支えがいがある」
二人がそんな風に話しながら歩いていた時、突如付近の茂みから葉と葉が激しく擦れるような厚みのある音が鳴った。
女性は顔を引きつらせる。そんな彼女の身をライトアップはそっと引き寄せた。安心しろ、そう語りかけるかのような動作で。女性の柔らかな頬がライトアップの脇腹辺りに沈み、一瞬だけ甘い空気が生まれる。しかしそれも束の間。次の瞬間には二人ともの顔が強張った。
「な……」
というのも、茂みから一匹の狼に似た生き物が姿を現したのだ。
「ま、魔獣!?」
ライトアップは青ざめながら発した。
「い、いやあああああっ」
女性は逃げようと走り出す――が、ライトアップは彼女の服を強く掴む。
「おい! 逃げんな! 勝手に逃げようとすんな!」
ライトアップは女性だけが恐怖から逃れることを許さなかった。
「逃げないとっ」
「うっせえ黙れ!!」
「ぇ……」
「ずっと一緒って言ったくせに自分だけ逃げるとか! 認めるわけねえだろそんなん! ちょっと可愛いからってふざけんなよ!」
――刹那、ライトアップは魔獣に噛み付かれる。
「うぐああああああ!!」
噛まれたのは片足だった。
幸いそれによって直接死に至るということはない。
だがかなり危険な状況であることは変わりようのない事実。
「いやあああああ! 怖いいいいいいいいい!」
女性はまた走ろうとする。
だがドレスの裾を倒れたライトアップに引っ張られる。
「お前! ふざけんな! 怪我した俺を放って逃げるつもりか!?」
「だってぇぇぇ……」
「ふざけすぎだろ、さすがにそれは! 酷すぎだろそれは! 俺を見捨てるつもりか!? どんだけ俺を馬鹿にしたら気が済むんだよお前は! なぁ! なぁ!! なぁ!! 聞こえてるのか!? なぁ!!」
「うう……だ、だって……だってぇ……怖いんだもの……」
女性は涙ながらに訴える。
「今すぐ俺を助けろよ!!」
だがライトアップは自分のことしか考えていない。
「怪我してるんだよ! 俺は! 見たら分かるだろ! 魔獣に襲われてんだよ! 助けろよ馬鹿女! 負傷者を見て見ぬふりするとかクソにもほどがあんだろ! お前はクソだ! クソ女だ! どんだけクソになりゃあ気が済むんだお前は! いい加減自分のクソさに気づけ! そして今すぐ謝れよ! そして今すぐ助けろよ! なあ! 今すぐ! 今すぐに、早くしろ!」
恐怖に震えている自分に対して心ない言葉を浴びせ続けるライトアップを見て彼の本性を知った女性は、やがて歯を食いしばり、掴まれているドレスの裾を引きちぎる。
「酷すぎます!」
彼女はそれだけ言い残し、その場から走り去った。
「おい! 待て! 待てよ! お前えええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」




