5話「生きる道は自分で決める」
ヴィヴェルの急に意識を喪失するという症状を抑えるため、私はいくつかの魔法薬を提供した。
もちろん無料でではないが。
ただそれでも彼は感謝してくれていた。
そして、三日後にまたここへ来ると、そんな約束もして。
新しい世界が広がってゆくことが何だか嬉しくて、それからの日々は、怪しいくらいにやにやしてしまってばかり。
やはり人のために何かをできるということは嬉しくて仕方がない。
どうにかなってしまったかのようにただひたすらに笑みが滲み出てくる。
何もしていない時ですら、嬉しさは湧いてくる。
ライトアップとの件は残念だったけれど、やはり、私が生きるべき道はこの道なのだと強く感じた。
やりたいことをやる人生。
それこそが自身の望むものなのだと改めて気づいた。
誰かに強制された道を歩くつもりはない。
過剰に抵抗する必要はないが、だからといって言いなりになるというわけではない――なぜなら私の人生は私の人生だから。
楽しいことをしている時、人は、それ以外のどんな時よりも輝くものだ。
「クリスティアちゃん、何だか今日は元気そうねぇ」
「はい!」
「返事だけでも凄く元気いっぱいねぇ。良かったわぁ。ちょっと心配していたから」
嬉しさに包まれている時と悩みを抱えていたりもやもやしていたりする時とでは、きっと、表情が大きく異なっているのだろう。
「心配をかけてしまいすみませんでした」
「いえいえ、いいのよぉ。クリスティアちゃんが元気ならそれでいいの。その元気な顔つきにこちらまで元気になれそうだわ」
お客さんからも「元気そう」とか「嬉しいことあった?」とか声をかけられることが多かった。
そしてあっという間にその日はやって来る。
「お久しぶりです」
「こんにちは! ヴィヴェルさん、体調はどうですか?」
「何だか調子が良いです」
「そうなんですね、それは良かったです」
病名は不明。何がどうなって発症しているのかも定かでない。そんな状態で魔法薬を出したので本当に効果があるかどうか分からなくて。正直そこまで自信はなかったのだけれど。ただ、今の彼の晴れやかな表情を目にしたら、自信はなくても挑戦してみて良かったなと心の底から思うことができた。
「では引き続き同じものを出しますね!」
「はい、その形でお願いしたいです」
「少しお待ちください」
「ありがとうございます、お願いします。急ぎません」
受付カウンターより若干奥にある棚へ向かっていると。
「クリスティアさん」
ヴィヴェルが唐突に名を呼んできた。
「今日は何だか明るい表情ですね」
しかもそんな意外な言葉をかけられる。
「私、ですか?」
「はい」
「……ええと、どのような反応をすれば良いのか分かりませんが……ありがとうございます」
褒められたのかさえ分からず曖昧な言葉を返すことしかできなかった。
ただ、それでヴィヴェルが不機嫌になることはなくて、彼はさらに話を続けてくる。
「何か嬉しいことがあったのですか?」
「それ聞きます?」
「あ、いえ、悪気はなかったのです。もちろん詮索するつもりもありませんでした。失礼でしたらすみませんでした」
思わぬ形で謝られてしまったことに驚き、気にしないでと何とか伝えたくて「いえいえ!」と大きな声を発してしまって、それによってなおさら何とも言えないような空気になってしまう。
だが、暫しの沈黙の後に、彼はふっと口もとを緩めた。
それによって硬直しかけていた空気が一気に柔らかくなる。
「つい気になって余計なことを言ってしまいましたが、寛容な心でのお許しありがとうございます」
「こちらこそ。細かいところまで気にかけていただけありがたく思います。ありがとうございます」
互いにお礼を言い合えば、春の陽のような空気に包まれた。