4話「できることなら協力したい」
あの後付き添ってくれていた女性とは別れた。
そして倒れていた男性と店内にて対面する。
あまり知らない人とこんな風に直接向き合うことは日頃意外とあまりないので若干不思議な感じがする。
男性はヴィヴェルと名乗った。
詳しいことはまだ明かされてはいない。だが言動を見ている感じでは不自然な点はない。現時点では一応不審者ではないと判断して良さそうだ。
「実はわたしたち一族は代々病弱なのです」
「そうなのですね」
……だから道で急に倒れたのだろうか?
「ですが単なる病弱とも少し違っていまして」
「事情がおありなのですね」
「遥か昔、神の祟りを受けたそうで。以降、一族の者は体調を崩しやすくなってしまったのです」
意外な展開に戸惑う。まさかこんなところで、神の祟り、なんて言葉が出てくるとは思わなかった。だが彼は真剣な面持ちで話している。なので冗談を言っているわけではないのだろうと理解することは容易かった。たとえそれが非現実的な話だとしても、だ。
「とはいえ症状は色々でして。わたしの場合は急に意識を喪失することがあります」
「それで先ほどのようなことになっていたのですね」
「はい。ですがこれでも比較的ましな方なのです。母の場合は、常に状態が悪くほぼ寝たきりに近い状態で、普通の暮らしさえ叶いません。身体そのものは健康なのに、です」
ヴィヴェルはほんの少し俯きながら言葉を紡いでいた。
「母国でも有名な医師に協力を仰いできたのですが、まったくもって改善せず。そんな時、この国には凄腕の魔法薬を扱う方がいると聞きました。もしかしたらそこへ行けばどうにかなるのではないか、と……期待して、ここへ来ました」
どことなく暗い彼の表情を見ていたら段々可哀想に思えてくる。
できることなら手を差し出したい。
できることなら何とかしてあげたい。
状態が改善すれば、きっと、彼も彼の母親も笑顔になれるだろう。
「くだらないうえ重い話をすみません」
「いえいえ、話してくださってありがとうございます」
少し間があって。
「よければぜひ協力させてください」
静寂を貫くように、私は口を動かした。
「本当ですか……!」
「はい。困っている方を放っておけません。何とかできないか模索したいです」
途端に明るくなるヴィヴェルの表情。
「あの、その、本当に……本当に、ありがとうございます……! 感謝します……!」
目の前の人が喜んでくれているという事実だけで私は生きてゆける――そんな自分の特性を再確認した瞬間だった。
「ではまずヴィヴェルさんのことから始めましょうか」
「お願いします……!」
「急に気を失ってしまう、という症状でしたね」
「はい」
記憶の海は広い。
脳内には多くの知識が詰まっている。
これらはほぼすべて父親変わりだった人が教えてくれた情報だ。
海を泳ぐように、相応しい情報を探そう。
「……どうにかなりそう、でしょうか」
「絶対とは言えませんがやり方次第では何とかなる可能性は十分あります」
「嬉しい。初めて言われました。……他国まで来てみて良かった、本当に。ありがとうございます」
急に意識を失う、なんていう症状でこの店へ来ている人は、ほとんどいない。そういった体質の人は少ないから。そもそも分母が少ないので、必然的にその症状を訴えて店へ来る人も稀となるのだ。店内で突然体調不良になった人というのはこれまでにもいたけれど、目の前の彼と同じ症状でここへやって来た人というのはもしかしたら一人もいなかったかもしれない。
「少し待っていてください」
「はい」
奥の棚へ向かう。
協力したいという気持ちがあることは紛れもない事実。しかし絶対に上手くいくという保証はない。魔法薬とはいえ万能ではないのだ、それを使ってもこの世のありとあらゆる不調が改善されるわけではない。彼の症状をどこまで落ち着けることができるかは定かでない。上手くいけば、といったところだろう。
「お待たせしました」
「早いですね」
「取り敢えず使えそうなものを色々持ってきました」
まずは説明から始める。
何をどう使うのか。
何にどういう効果があるのか。
完璧に理解してもらう必要はない。
けれども多少は分かっていてもらう方が良いだろう。
その方が彼も納得して使用できるだろうし。