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婚約していた彼とは見つめている未来が真逆のものであったために終わってしまいましたが、後に良い出会いがありました。  作者: 四季


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19話「来店多めの日も」

「おねえたん!」


 ある朝、店にやって来たのは、十歳にも満たないような幼い女の子。


「いらっしゃいませ」

「ありがとお」

「こんにちは。ご用は何ですか?」

「あのね、あのね、お母たんがね、頭痛のお薬買ってきてって」


 そう言って女の子は片手を前へ出す。

 その手のひらにはお金が乗っていた。


「これで買ってきてって、お母たんが」

「一回分ですか?」

「分かんない! 多分これで買える分!」

「承知しました。ではそのように用意しますね。しばらくお待ちください」


 この店へ小さな子がやって来るというのはわりと珍しいことだ。それゆえ戸惑いはある。けれども彼女の場合はお金を持ってきてくれているので商品を渡すことはできる。迷子や遊びに来ただけだと厄介だが、買いに来てくれたというなら話は早い。単純にお金と商品を交換すれば良いだけだから。


「はい、こちらです」

「ありがとお!」

「ではこれはいただきますね」

「うん!」


 お金を受け取る瞬間に微かに触れた女の子の手のひらは温かく柔らかかった。


「お姉たんありがとお! また来るね! 多分今度はお母たんとだけど!」


 女の子は笑顔で帰っていった。


 ちょうどそのタイミングで次のお客さんが現れる。


「気分が晴れなくてねぇ……そういうのに効果のある薬とかはないのかい?」

「あります!」

「じゃあ少し……そういうのを、買わせてもらおうかねぇ……はぁ」

「分かりました! では、しばらくお待ちください」


 今日は何だか忙しい。

 次から次へと店内にお客さんが入ってくる。


 軽い体操をする間すらない。


「こちらか、こちらか、この辺りが良いかと思われます」

「何が違うのかねぇ……」


 だが店が繁盛するのはありがたいことだ。

 なんせ店というのはお客さんがいてこそ成り立つものだから。


「そうですね、こちらの方が身体的な疲労にも効果があります。逆にこちらは気分的な側面への効果は強いのですが身体的な面のフォローは控えめです」

「なるほどねぇ……じゃあ、疲れもあるから、こっちの方が良いかもしれないねぇ」

「ではこちらにしますか?」

「そうだねぇ、そうしようかねぇ……ふぅ……」

「承知しました! ではこちらを袋に入れて参ります!」

「ありがとねぇ、助かるよ」


 お客さんに媚を売るわけではないけれど、少しでも良い印象を持ってもらえればいいなと思うことは事実。


 だから毎日頑張るのだ。


「早い対応ありがとねぇ」

「ご来店ありがとうございました!」


 忙しくても、前向きな表情は崩さない。


 もう体調不良にならないことを祈りつつも。

 また来たいと思ってもらえる店となれていることを願いながら。


 前向きな心でお客さんを見送ろう。


 それが今の私にできることだから。

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