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婚約していた彼とは見つめている未来が真逆のものであったために終わってしまいましたが、後に良い出会いがありました。  作者: 四季


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18話「誰かのためにできること」

 ヴィヴェルの母親が善良な人で安心した。


 彼女は私に敵意を向けることはしなかった。むしろ積極的に関わり楽しい時間を作ろうとしてくれていたほどで。女の敵は女、なんていう説もあるけれど、彼女と私の関係においてはそんな説は何の意味も持たず。逆に、女同士だからこそ分かり合える、と言った方が相応しいほどであった。


 だがそんな風に良い関係を築けたのはすべて彼女が前向きな心で接してくれていたからだろう。


 人間関係において、良い関係を築くというのは、時に難しいことでもある。


 良い関係を築こうと思えばお互いに努力が必要だしお互い思いやりを持って接する必要がある。


 それができなければまともな関係は築けない。たとえどちらかだけが懸命に努力していてもどこかで綻びが生まれるもの。つまり、片方だけが仲良くなれるよう努力しても無意味なのだ。


 何も難しいことではない。

 極めてシンプルな話だ。

 両者が互いを大切に想うことこそが良い関係への第一歩なのである。




「あの……初めて、来店……した、の、ですが……」

「いらっしゃいませ!」

「ぁ……ぇ、と……魔法薬、の、お店……ここ、ですよね……」

「そうですよ!」


 また新しい一日が始まる。


「どのようなものをお求めですか?」

「頭痛が……続いていて、でも、その……医師に診て、もらったのですが……原因不明でして……」

「分かりました、頭痛を治したいということですね」

「はい……」

「ではいくつか効果のありそうなものを紹介させてくださいね!」

「ぁ……は、はい……お願い、します……」


 見慣れない顔が来店した時もすべきことに変わりはない。


 目の前の人を少しでも楽にする――それが私の使命なのだから。


「お待たせしました!」

「は、はい……」

「三つほど、頭痛に効果がありそうなものを持ってきました」

「それらを……すべて、買うと……良い、という、こと……でしょうか……?」

「いえいえ。候補として持ってきただけですのですべてを買っていただきたいという話ではありません」


 何となく疲れた人、具体的な症状がある人、などなど、この店へ来る事情は皆それぞれ異なっている。けれどもその多くが何かしら困っている人であるということは確かなことだ。健康な人や順調な人はこういうところへはあまり来ない。


 だからこそ、思いやりを持って接していかなくてはならない。


 どんな時も笑顔で。

 どんな時も明るく。


 前向きな対応をする必要がある。


「この中から選んでいただければと」

「……で、でも」

「質問があれば何でもどうぞ」

「その……どれが、良いものか、とかは……分からない、ので……」

「これから一つ一つ紹介しますね!」

「ぁ……そ、そう、ですか……ありがとう、ございます……」


 心折れそうな人がいるならその心を支えたい。

 体調不良の人がいるならその体調が少しでも良くなるよう協力したい。


 だから私は働き続ける。


 誰かの陽だまりになれるように生きたい。


「この……青い、瓶の……ものでも、良いでしょう……か……?」

「もちろんですよ! こちらが良さそうですか?」

「ぁ……の、良く分かっては、いない、のですが……良さ、そう……かな、と」

「ではこちらご用意しますね!」

「は、はい……! ありがとう、ございます……!」


 来店してきた時には暗い顔をしていた人が段々明るい表情になってゆく、その姿を見ることが何よりも幸せ。


「ありがとうございました!」

「こちら、こそ……お世話になり、ありがとう……ございました……!」


 私はこの世界のありとあらゆる悩みを解決できるほど万能ではないけれど、それでも、少しくらいは他人のためにできることがあるはずだ。


 だから毎日できることをする。

 たとえ小さなことでも。


 ――そう、自分にできることをやりながら生きてゆくのだ。

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