16話「雨が止むまで」
雨が止むまで、私たちは同じ屋根の下で過ごした。
……と言ってもいかがわしいことは何もない。
お茶を飲みながら、雨が酷いことについて語り合ったり、それぞれの話したいことを互いに口から出して聞き合ったり――そんな穏やかな時間だった。
ただ、そういった機会というのはなかなかないものなので、とても楽しい時間であったことは事実だ。
ヴィヴェルは小さい頃のことについて少しばかり話してくれた。
代々健康に問題が発生しがちな家に生まれたことや、それゆえ周囲から「呪われている」「恐ろしい」などと言われながら育ってきたこと、などなど。
また、一時期親しくしていた同性の友人がいたもののその子の親が「あんな子と関わったらうちまで呪われる! だから駄目!」と注意したことで友人関係が壊れてしまった、という切ないエピソードも教えてくれた。
ある程度話し終えてから、彼は少し申し訳なさそうな顔をして「このような話、面白くも何ともありませんよね……すみません、色々話してしまって」と謝ってきたので、私は首を強く横に振った。
たとえ良いことではなくとも。
たとえ幸せな話ではなくとも。
それでも嬉しいのだ、彼について知れることが。
私たちが出会ってからの月日というのはそれほど長いものではない。
ゆえにお互いについてのことで知らないことも少なくはない。
深い関係を築くこと、それはつまり、互いについて多くのことを知ることであろう。ということは、だ。ここからさらに親しくなろうと思うなら、お互いのことについてより深く知っていく必要があるだろう。
ただ、深く知るということは、暗い部分に踏み込むということでもあるわけで。
そういう意味では時に明かすことに躊躇いも生まれるものであるはず。
しかしながら彼は自身のそういった陰の部分についてもさらりと明かしてくれた。
一方、私はというと、魔法薬に関する話を聞かせるだけだった。
……なんというか申し訳ない。
もう少し深みのある話ができれば良いのだが。なんせ得意とする分野が少ないもので。熱く語れるとなると魔法薬関連くらいしかない。興味があることも、好きなものも、知識を持っている分野も、そのすべてが魔法薬関連なものだから。それ以外の話で場を盛り上がらせる力が私にはないのだ。
あの雨の日から数週間。
一度実家へ戻っていたヴィヴェルがやって来たと思ったら、その隣にはまさかの。
「貴女がクリスティアさんね!」
――彼に似た女性が立っていた。
「え……」
思わずこぼしてしまう情けない声。
「初めまして! ヴィヴェルの母です!」
ヴィヴェルと同じ銀色の髪。
伸ばしているようだが今はうなじの辺りでお団子を作るようにまとめている。
見る者に聡明さを感じさせるようなスタイル。
また、華やかさをまといつつも爽やかさも感じられる凛とした目もとが印象的で、どちらかというとクールそうな目鼻立ちなのに笑顔は愛らしいというところに良い意味でのギャップがある。
「あ、お母さまですか」
「ええ!」
「初めまして。クリスティアです。よろしくお願いします」
彼女はすたすたと歩み寄ってくる。
そして何の迷いもなく手を握ってきた。
「貴女のおかげでこうして隣国へ移動できるまでになったのよ! ありがとう! 本当に嬉しい。だからね……貴女には、もう、本当に、心から感謝しているの」
美しい女性に近づかれ、微笑まれ、真っ直ぐなお礼の言葉を述べられて。
……なんだこの気持ち。
どうしてだろう。
なぜか凄く照れてしまう。




