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婚約していた彼とは見つめている未来が真逆のものであったために終わってしまいましたが、後に良い出会いがありました。  作者: 四季


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14話「良い状態を保てている」

 治療開始から三ヶ月ほどが経った。


 近頃ヴィヴェルの母親の体調はかなり良い状態を保てているようだ。


 前は寝たきりに近い時期もあったほどだったようだが、今では自力で歩いたりちょっとした個人的な用事をしたりといったこともできるようになっているようで、それと同時に生きる気力も取り戻せつつあるのだとか。


 また、表情や性格も明るくなり、以前よりよく笑うようになってきたそう。


 体調不良を改善の方向へ運べたならそんなに嬉しいことはない。

 なぜって、それが私の仕事そのものなのだから。

 そして、辛い状況にある人や体調が優れない人を知識や魔法薬を使って助ける、それこそが私が選んだ人生でもあるわけだから。


 私としては、今はやりたいことができているので大満足だ。


「いつかクリスティアさんに会ってみたい、と、母はいつもそんな風に言っています」


 慣れた席に腰を下ろしているヴィヴェル。

 口を動かしている時の顔つきは快晴の日の空のように晴れやかだ。


「興味を持ってくださっているのですね!」

「そのようです。お店に、魔法薬というものに、そしてクリスティアさんにも……日を重ねれば重ねるほどに関心を持ってきているようでした」

「それはとても嬉しいことです」

「もっと元気になったらいつか必ずお店へ行く、とも言っています」

「それは、かなりの熱量ですね……!」

「母としてもそのくらい嬉しい出来事なのだと思います。元気になれて、普通に動くことができて、と、そういう状態になれたことがほとんどない母なので」


 今日は雨が降りそうだからということもあってかあまりお客さんがいない。

 なので店内を満たしているのは静けさだ。

 ただそれでもいつも親しくしている彼がいるのでつまらなくは感じないし寂しさもない。


「ではそろそろ一旦宿へ戻ろうかと思います」

「もう戻られますか」

「あまりにも長々と居座るというのも迷惑ですから。そろそろ雨も降り出しそうですし、いただくお薬はまた明日にでも――」


 その時。


「「え」」


 突如大きな雷鳴が響いた。

 一発だけだが腹を突き上げるような凄まじい音。


「かみ……なり、ですね」


 席から立ち上がりかけていたヴィヴェルだが、再び腰を下ろす。


「今出るのはやめておいた方が良いかもしれません」

「危ないですかね……」

「ヴィヴェルさん、よければもう少し状況が落ち着くまでここにいてはどうですか?」


 無理に外へ出てヴィヴェルの身に何かがあったら大変なことだ。


「ですが迷惑では」

「大丈夫ですよ!」


 ヴィヴェルはまだ気まずそうな顔をしている。


「しかし……」


 このままではきっと彼はいつまでも気まずさを抱えてしまうのだろうな、と思ったので。


「あ、そうでした。そういえば、先日一つ新しい商品を仕入れたんです。ハーブティーなんですけど、よければ味見してくださいませんか?」


 新しい話題をこちらから提供してみた。


「……味見、ですか」

「ええ」

「ハーブティー、ということは、医療用のものではないということですか?」

「そうですね」

「少し関心があります……!」

「では淹れてきますね」

「それは嬉しいですが、ただ、色々お世話になってしまい申し訳ないです」

「こちらがお願いしたことですから。気にしないでください。では淹れてきますね、少し待っていてください」


 ちょうどそのタイミングで外から雨粒が降り注ぐような音が聞こえてきた。

 どうやら本格的に降り出したようだ。


 そして、ふと思う。


 ――こんな時に誰かと共に過ごすのはいつ以来だろう。


 父親代わりだった人が亡くなって。

 店が私一人のものになって。

 それからはずっと晴れの日も雨の日も暑い日も寒い日も一人だった。


 営業時間中、お客さんがいる時であれば、一人ではないけれど。


 夜は一人になることがほとんどだった。


 幸い私は「夜が怖いよぉ~」なんて泣き出すような人間ではなかったのでどんなことも乗り越えてきたけれど、孤独を感じる夜も……きっと、あったことはあったのだろう、生きてきた多数の日々の中には。

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