13話「息子も母も」
ライトアップはというと、あれからずっと一日のほとんどをベッドの上で過ごすような暮らしをしていた。
魔獣に襲われて負った怪我自体は時の経過と共に治りつつある。
しかし彼の心を真の意味で破壊したのはそれではなくて。
あの一件の直後、彼は、同時に多くのものを失った。そして、その事実が、彼から生きる気力を奪い取っていったのだ。
手に入れていたもののほとんどを失ったのだから、無気力になるのも不自然な話ではない。が、彼の場合はその度合いがかなりのもので。それゆえ、精神への影響も大きかった。
今やライトアップは抜け殻。
かつての彼はもうどこにもいない。
かつての彼は消え去った。
何とか生きてはいるが、それは、ただ肉体が生きているというだけだ。
肉体が生きているだけでその人が生きているとは言えないだろう。厳密には、ではあるが。健康な肉体があり、しっかりとした精神があり、それで初めてその人として生きているということなのだから。
――と、その時、ライトアップの自室へ母親が入ってくる。
「ライトアップ、そろそろお出掛けでもすればどうなの?」
「黙れおかん」
「まぁ! そんな汚い言葉、どこで学んだのかしら!」
「構ってくるなよ」
「ちょっと! 心配してあげているんでしょ!? それなのにそんな言い方って! 可愛い息子とは思えないわ!」
ライトアップとその母親は顔を合わせるたびに険悪な空気になる。
以前もそういう時はあったのだが。
近頃は特にその傾向が顕著だ。
「風でも浴びてくればどうなのよ? 外に出ないでいつまでも引きこもっていたら馬鹿になってしまうわよ」
「うざ」
「なんてこと言うの! 母親として気にかけてあげているんじゃないの!」
「出てけよ」
「何ですって!?」
「出てけよ、って言ってるだけ」
「何よそれ! 母親に対してどうしてそんな口の利き方ができるの!? あり得ないわ!」
顔を真っ赤にして怒るライトアップの母親。
「そんなことを言う男、息子じゃないわ! さっさと出ていって! そんなことを平気で言うなら、さっさとここから出ていきなさいよ! 出ていって、誰の力も借りず、独り生きていきなさいよ!」
彼女は鋭く叫んでからライトアップが被っている布団を剥ぎ取る。
「出ていきなさい!!」
続けて数回ベッドを蹴った。
「……黙れよババア」
それでもなおライトアップは生意気な言葉を吐く。
すると母親の怒りはさらに大きくなる。
「さっさと出ていって! 出ていきなさい! 今すぐ出ていってちょうだい! 五秒以内にこの家から出ていって! さっさとして! 早くして! 早く! 立って、すぐに、出ていきなさい! 偉そうなことを言う男は息子じゃない、息子に似た姿の何かよ! だからこの家に置いておくことはしない! さっさと出ていきなさい! 悪魔か何か知らないけれど、とっとと出ていって!」
彼女はベッドを両手で無理矢理ひっくり返した。
家の中に凄まじい音が響く。
「出ていくのよ! 今すぐ! ほら早く! 出ていかなかったら家具の下敷きにするわよ! 分かっているの!? ここはあんたの家じゃない! 夫婦の家! だから生意気なことを言うならあんたはこの家には要らない! 出ていって! 今すぐに! 五秒以内にここから消えて! 出ていきなさい! 出ていきなさいよ! ほら、すぐ! もう待たないわよ! 家具に踏み潰されてあの世に逝きたいの!? いいからさっさと出ていくのよ! ちんたらしてるんじゃないわよ! ほら! 早くして! とっとと出ていって!」
こうしてライトアップは家から追い出されたのだった。
「何よ何よ何よおおおおおおお! あのクソ息子ぉぉぉぉぉ! あんなに手間をかけて育ててきたのに、育ててきてあげたのに、それなのにあんな口の利き方するなんてえええええええ! 生意気過ぎるでしょおおおおぉぉぉぉぉぉぉ! 腹立つ腹立つ腹立つ腹立つぅぅぅぅぅぅぅ! イライラするのよぉぉぉぉぉぉぉ! あんなに頑張って、多くのものを犠牲にして、育ててあげたっていうのにぃぃぃぃぃぃぃぃ! 何なのよあの態度はああああああああ! 母に感謝しなさいよおおおぉぉぉぉぉぉ! 一日に最低でも二十回はありがとうと言いながら生きていきなさいよおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
それでも母親の怒りは収まらず。
それからしばらく彼女は一人でいる時でも叫び続けていた。
……そして、ある日の夕暮れ時、叫んでいたところ急に体調を崩し倒れ。
そのまま還らぬ人となったのだった。
また、住む場所を失ったものの無気力すぎて何をするでもなく街を彷徨っていたライトアップも、極度の飢えと夜の寒さによって落命した。




