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婚約していた彼とは見つめている未来が真逆のものであったために終わってしまいましたが、後に良い出会いがありました。  作者: 四季


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12話「より良い方向へ一歩ずつ」

 ヴィヴェルの母親の体調を改善するべく、私たち二人は動き出した。


 ……とは言っても、店にまで来ることのできるヴィヴェルに薬を出すのとは勝手が違う。


 彼の母親は母国にいる。そしてこの国へ来ることはできない。となると国境を跨いでの治療ということになる。距離のある場所へ薬を送る、それだけでもある程度の日数がかかってしまいややこしいというのに、その条件で症状の様子を見つつ一つずつ対応していくとなるとかなり大変な手間である。


 とはいえ一度引き受けた以上やっぱりやめたなんて言えるはずもない。


 そんなことをすればこの店の評判は地に堕ちてしまう。


 それに。


 単なる評判うんぬんを除けたとしても、何とか彼の母親を健康に戻したいという気持ちがあるのだ。


 幸いヴィヴェルは国を行き来するなど熱心に協力してくれるようなので。

 手を取り合って進めてゆけば何とかなるだろうと前向きに考えて歩もう。


 やってみる前からできない理由を探すべきではないから。




 ――治療開始から二週間。


「クリスティアさん! 母が数年ぶりにベッドから起き上がって行動することができました!」


 弾丸のようにヴィヴェルが飛んできたと思ったら、そんな言葉を放ってきた。


「本当ですか!」

「この前の第一陣、いただいた魔法薬ですが、効いているようです」


 凄く嬉しそうな顔をしているヴィヴェルを目にしたらこちらまで自然と笑顔になってしまう。


「今のところ良い感じですね」

「はい!」

「では続きの分を用意します」


 以前よりかはヴィヴェルに会う回数は減った。しかしそれは悪い意味でというわけではない。薬を運ぶことを彼に頼んでいるため、ただそれだけである。移動する日数の分、彼はここへ来ることはできない。しかしその働きがあってこそ国外にいる人を救えるのだ。


「今回お金はたんまり持ってきましたので! 割引はなしで大丈夫です!」

「本当ですか?」

「はい! 前回はお試しでしたから!」

「分かりました、では、その予定で進めます」

「ありがとうございます! クリスティアさんはとても頼もしいです。引き続きよろしくお願いします!」


 何事も一歩ずつ。

 いきなり大きな成果を求める必要はない。


 小さなことでも積み重ねれば大きなことになってゆくもの――だから、日々考え、熱心に取り組み、とにかくこつこつと頑張るのだ。


「そういえば、起き上がって行動できたとのことでしたが、まだ酷いままの症状はありますか? 目立ったものがあれば教えてください」


 取り敢えず前回と同じものを用意する。


「そうですね……頭痛がするというのはまだ言っていました」

「いつだったか前に言っていた身体の痛みというのはどうでしょう?」

「動けるくらいには落ち着いてはいるのだろうなとは思うのですが……」


 そして、そこからさらに話を一歩前へ進める。


「悪化している感じではないのであれな良い方ですね。ただ、やはりどうしても、症状をいきなり完全になくすというのは難しいですよね」

「それはそうかもしれません」

「継続で、気長にいきましょう」

「クリスティアさん……! 付き合ってくださり、本当に、本当に、ありがとうございます」


 窓の外から降り注ぐ柔らかな日射しは私たちを励ましてくれているかのようだ。


「――では、今回はこのような感じですかね」


 時間は少々かかってしまったけれど、今回出す分をまとめることができた。


「お母さまの状態が早く良くなるといいですね」

「ありがとうございます。もう、本当に……お世話になってばかりで、もう……泣きそうです」


 感情を表に出す時のヴィヴェルは何だか少し可愛らしい。


「ではお気をつけて」

「はい! 良い報告ができるよう願いつつ、母に薬を届けてきます!」


 昨日より今日、今日より明日、症状が良くなることを願いながら。


 ヴィヴェルの背中を見送った。


 きっと希望はある。

 きっと良い方向へ進める。


 ……大丈夫。


 今はただ、自信を持って、できることをやるだけだ。


 ふと思い立って店の外へ出てみた。

 すると包み込んでくれるような優しげな日射しが降り注いできて。


 まるで良い未来を暗示しているかのようで。


 なぜだろう、根拠なんて何もないのに。


 これからがますます楽しみになってきた――!

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