11話「次の段階へ」
「色々大変でしたね」
「お騒がせしてしまいすみません……」
厄介な女が去って、店内に平穏が帰ってきた。
ライトアップの母親はいつの間にかライトアップにも負けないような身勝手な人間になっていた。かなりの面倒臭さだったけれど、厄介の極みだったけれど、何とか撃退できて良かった。皆の協力があってこその撃退成功である。
「ヴィヴェルさんが来てくださって本当に助かりました。ありがとうございました。あの時ヴィヴェルさんが来てくれていなかったとしたら、もう、本当に、どうなっていたか分かりません」
「そんな。わたしは大したことはしていません。事実を述べただけです」
「それが本当にありがたかったのです。ああいう厄介な人と対峙するには一対一より一対多の方が良い、そういうものですから」
買い物に来てくれた常連客の対応がおおよそ終わってから、今日もまたヴィヴェルと言葉を交わす。
今日は色々あったので少々疲れた感じはするけれど。
何とか無事平穏を取り戻すことができたので今は少しばかり心を緩めて過ごすことができている。
「それにしても、このお店は多くの方に愛されているのですね」
「そう見えますか?」
「はい。あれだけ熱心に意見を述べる常連客の方がいらっしゃるのですから。愛されているのだろうな、と」
受付カウンター奥の棚に置いている様々な色の小瓶を一つずつ手に取って布で拭いていく作業をしながら会話を続ける。
「そう感じていただけたなら嬉しいです」
「本当に凄いことです」
「とはいえ、私だけの力ではなくて、どちらかというと先代の力かとは思いますが……」
するとヴィヴェルは。
「今このお店を営んでいるのはクリスティアさんですよ」
何の躊躇いもなくはっきりと言ってのける。
「クリスティアさんの頑張りがあってこその人気です」
こんな時に限って意思の強さを見せてくるヴィヴェル。
「そう、でしょうか……」
「そうですよ」
やっぱりそう? なんて言えるほど、遊び心はないけれど。
「……ありがとうございます、励みになります」
それでもお礼を述べることはできる。
私とヴィヴェル以外誰もいなくなった店内。なぜか流れるしっとりとした空気。けれどもそれは触れて痛みを感じるようなものではなくて。むしろ心地よさを感じるような空気。身を委ねたい、そんな風に思わせてくれるほどに、優しさが滲んだ空気だ。
「そうでした、ヴィヴェルさん、お母さまの件でしたね」
「あ、はい」
「今日はお母さまの症状に合いそうなものを探します」
「お願いします」
ここのところ、ヴィヴェルの症状は着実に落ち着いてきている。なのでそろそろ次の段階へ。次なる敵――敵と言うと少々変かもしれないが――この先で対峙するのはヴィヴェルの症状ではなく彼の母親の症状。
もしそれが改善したなら、きっと、ヴィヴェルはもっと笑顔になれるだろう。
「まずはお母さまの症状をここへ書いてくださいませんか?」
「分かりました」
「敢えて書かせるなんて……もし辛いことでしたらすみません」
「お気遣いありがとうございます、平気です」
私にできることがあるなら協力したい。
この手で誰かを救えるならば救いたい。
それは純粋な気持ちだ。
対象者が大切な人ならなおさら。
大切な人の大切な人は私にとっても大切な人であると言えるだろう。だからこそ、救いたい。大切な人の大切な人にはなるべく苦労してほしくないし少しでも良い体調で過ごせるようになってほしい。
「書けました」
「ありがとうございます!」
「正式な名称が分からないところもあって曖昧な書き方になってしまっている部分もありますが……」
「それは問題ないですよ」
「なら良かったです。不明な点があれば遠慮なく何でも聞いてください」
「分かりました、そうしますね!」




