10話「味方がいると心強い」
ヴィヴェルの登場に動揺したような面持ちになるライトアップの母親。
まさか私の味方をする者が現れるとは思っていなかったようだ。
「なっ……何なの、貴方は一体……」
「クリスティアさんを理不尽に責めるようなことは許しません」
静かながら怒りをはらんだ目をしているヴィヴェルはいつもより低めの声で言い放つ。
「それも迷惑行為です」
「う、うるさいわね! 貴方に何が分かるっていうの!? 無関係な人間がでしゃばってくるんじゃないわよ!」
「事実とは言えないようなことで文句を言う、そのような行為をするためにここへ来たのですか? それなら今すぐ出ていってください。このお店にお世話になっている人間としても不愉快ですので」
ちょうどそのタイミングで数名の常連客も来店してくる。
「そうよぉ、いつも頑張ってるクリスティアちゃんに心ない言葉を投げつけるなんて酷いわぁ。可愛いクリスティアちゃんを虐めるような真似はやめてちょうだい」
その中には、いつも私のことを気にかけてくれている年を重ねた女性もいた。
「このお店のお客はね、お店自体のことはもちろんだけれどクリスティアちゃんのことも大切に思っているのよぉ。だからクリスティアちゃんを傷つけるような人間に対しては不快感を感じてしまうの。しかも買い物しないならなおさらだわぁ。まともな理由もなく来店して、クリスティアちゃんを傷つける。そんなおかしなことしかしないような方にはここへは来てほしくないのよねぇ」
味方が徐々に増えてゆく。
同時に高まる心強さ。
独りでだって立ち向かうつもりでいたけれど、やはり、味方となってくれる人がいるということはとても頼もしいことだ。
孤独でない、そう思えるだけで湧いてくる勇気は何百倍にもなる。
「そうじゃぞ! わしなんかは先代の頃から通っておるが、クリスティアさんの代になってからもいつも助けられておるんじゃ! だからクリスティアさんとこのお店には感謝しておるんじゃ!」
「同感ですわ。貴女のような方はこの店には相応しくありませんわよ。といいますか、そもそも、いちゃもんをつけるためだけにやって来たような方はお客ではありませんしね」
こちらの味方が増えるたび、ライトアップの母親は不利な立場になってゆく。
一気にどうしようもない状況に追い込まれた彼女は必死になって「う、うるさいわね! 何なのよ寄ってたかって! 宗教か何か!? きっもち悪いわね!」なんて心ない言葉を並べるが、そのようなことをしたところで何の意味もない。
なんせ今は私の味方が揃っているのだ。
圧倒的に不利なのは彼女の方である。
「お帰りください」
取り敢えず私は冷静にそれだけ言った。
するとそれに続けるようにヴィヴェルが「営業妨害はここまでにしておいた方が身のためですよ」と少々脅すような言葉をかける。
日頃は善良な人なのだが、意外と毒を持っていることに気づいて――当然悪い意味ではないけれど少しばかり驚いた。
「そうよぉ。用がないなら帰ってちょうだい。他のお客さんたちに迷惑になるわぁ」
「もういいじゃろ、悪意を剥き出しにするのは諦めて去るべきじゃよ」
「ストレス発散ならよそでやっていただきたいですわ。このお店はそういうお店ではありませんもの」
皆から一斉に批判的な意識を向けられたライトアップの母親はさすがに居づらくなったのか「わ、分かったわよ! 去ればいいんでしょ去れば!」なんて強がりつつも退散していく。その時の彼女の顔つきは恐怖に満ちた心情と思い通りにならないことへの怒りが入り交じっているようなものであった。彼女は出ていく瞬間最後に「客を選ぶこんな最低な店、二度と来るものですか!」と鋭く吐き捨てた。が、明らかに負け惜しみだ。敗者が吐き捨てる言葉に含まれた悪意など、こちらからすればどうということはない。
「すみませんでした、皆さん。迷惑をお掛けしてしまい」
ライトアップの母親がいなくなってから改めて謝罪すると。
「いいのよぉ、クリスティアちゃんは悪くないものぉ」
「そうじゃそうじゃ」
「悪いのはあの女だけですわ」
皆、笑顔になって、優しく接してくれた。
これまで頑張ってきたからこそこんなに心強い味方がいるのだと気づいて、今日まで生きてきた自分に少し感謝した。こんなことを言うのはおかしな話かもしれないけれど。貴女のおかげで助かった、と。良いものを積み上げてきてくれてありがとう、と。過去の自分にお礼を言いたくなったのだ。
そして、改めて、この仕事を頑張ってゆこうとも思えた。




