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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと日向芽有
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窓の外を見ると、強い雨が降っていた

 日向さんは、私のスカートの中に手を入れて、パンツを脱がそうとした。


「いや! やめて!」


 私は全力で抵抗した。


「なに? さっきまで全然抵抗しなかったのに、急に抵抗するじゃん。そんなにいや?」

「やめて、お願いします、やめてください」


 足をバタつかせて、体をくねらせて私は必死に抵抗した。だけれど、手で抵抗できないから、どんどんと脱がせられる。

 おしっこの匂いが鼻を抜けて吐き気がした。


「いや、返して!」


 必死に抵抗したけれど、パンツを脱がされてしまった。


「どう? ノーパンの気分は。でもまあ、たかしちゃんヤリマンだからなー。むしろ今日は珍しくパンツ履いてたって感じ?」


 水に濡れた私のパンツをぴらぴらと親指と人差し指で摘んで揺らしている。


「うわ、見てこれ、染みあるわ。きったね」


 これから何をされるんだろう。パンツを脱がされて、何をされるんだろう。


「よし、じゃあ。今日はこれくらいにしといてやるよ。靴買いに行くんでしょ? 明日は何飲んでもらおうかなー。じゃあねー」

「やばかったねー」

「飲尿だよ、飲尿健康法だよ」

「健康になったらお礼してもらわないとね」


 四人は私の事を忘れたみたいに、談笑をしながらどこかへ行った。聞こえてくる声が小さくなって消えた。




 ぴちゃん、ぴちゃん。


 ホースから水滴が落ちる音だけが聞こえる。気がついたら、私はトイレの床に座り込んでいた。水浸しの学校のトイレのタイル。汚い。でも、今は私の方が汚い。


「おえっ……」


 鼻から抜ける匂いはありえないものだった。私は立ち上がって水道で口を洗った。


「おえっ。おええ」


 私は頑張って吐こうとした。自分の体の中におしっこがあるなんて、それも他人のおしっこがあるなんて信じられない。気持ちが悪い。だけど、吐いたら、口の中にまたあれが戻ってくる。そうしたら匂いがする。味がする。そう考えると、どうしても吐けなかった。何度も何度も口を洗った。涙が出てくるばっかりだった。


 なぜか悲しくなかった。辛さもそれほどなかった。なのにどうしてか涙が溢れて止まらない。よくわからない感情を抱えていた。後たった三日。水曜日と、木曜日と、金曜日を過ぎれば、きらなちゃんが帰ってくるんだ。友達がいるおかげでこれほどまでに頑張れるとは思わなかった。


 窓の外を見ると、強い雨が降っていた。


 よかった。このまま傘も刺さずに濡れて帰ろう。お母さんには傘を忘れたって言えばいい。そしたら今びしょ濡れだったことがバレないから。


 パンツがなくなったことはどう隠せばいいんだろう。考えないと。


 はっ、そうだ。私、いまパンツ履いてないんだ。パンツ、取られてそのまま持っていかれたんだった。


 ああ、そうか。私、このまま帰らないとけないんだ。日向さんたちのいじめはまだ続いているんだ。パンツを履いていないことに、すごく恐怖を覚えた。誰かにバレたらどうしよう、見られたらどうしよう。日向さんたちは、私のパンツをどうするつもりだろう。私が今パンツを履いてないって言いふらしていたらどうしよう。そう考えると、トイレから出ることができなかった。


 たった数歩、たった数センチの出入り口から出ることが、こんなに怖いとは思わなかった。声は聞こえなくなったけど、日向さんたちがまだいるかもしれない。そう考えるとトイレから出られない。思い切って、スカートを押さえながら飛び出した。

 階段ですれ違ったらスカートの中を見られるかもしれない。私は下の階に人がいないことを確認してから下に降りた。時間をかけてようやく下に降りると。今度は部活動をしている人とすれ違わないといけなかった。

 外は雨が降っている。日向さんたちはもう帰っただろうか。突然現れて、誰かの前で私のスカートを捲ったりしないだろうか。考えるとキリがなくなってきた。どうしていいかわからない。歩いてここを抜けるには、いろんな人とすれ違わないといけない。


 その時にバレたら?


 じゃあ走って通り抜ける? 


 走ればスカートが捲れる確率があがっちゃうかもしれない。でも、早く切り抜けられる。どっちにしよう……。私は、怖いけれど歩いて通り抜けることにした。カバンでスカートの後ろを押さえて、捲れないようにして、私は雨の中をゆっくりと歩いた。


 聞き取れない声が聞こえる。私がパンツを履いてないっていう話をしているような気がする。恥ずかしくて怖い。見られたくない。私は一生懸命ゆっくりと隠れるようにして歩いた。


 日向さんたちとは出会わずに、校門まで来れた。多分、誰にもバレてない。でも、みんなが私のことを見ている気がした。ずぶ濡れの制服が雨でさらに濡れていく。


 校門を抜けると、早足で歩いた。風が吹いたら捲れ上がるかもしれないと思ってスカートから手が離せない。息をするとおしっこの匂いがまだする気がする。吐きそうで、気持ち悪くて仕方なかった。


 周りに歩いている人が一人もいなかったのが救いだった。誰ともすれ違わずに家に辿り着けた。よかった。家まで辿り着けた。


 私は深呼吸をして玄関の戸を開けた。

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