ほーら、いくよー
私は咳を出しながら、必死に首を横に振った。
嫌だ嫌だ嫌だ。
絶対嫌だ。そんなもの飲みたくなんかない。
絶対やだ。やだやだ。やめて。
「あー、私出るかも」
日向さん以外の三人はしばらく静まり返った後、井岡さんが恥ずかしそうに手を上げた。
「まーじ? 瑠子最高じゃん。流石私の一番の友達だわ」
「ちょっときいちゃん腕抑えといて。このコップにするんでしょ? あはは、コップにおしっこってなんか検尿みたい」
笑いながら井岡さんが個室の中に入っていく。静まり返ったトイレの中で、井岡さんがこっぷに尿を足す音が響く。体を揺すっても、足をバタつかせても、逃げる事はできない。
「嫌! やめて! ごめんなさい! 私が! 私が悪かったです。 謝りますから! ごめんなさい! いや!」
「あはっ。何? 急に元気になったの? でももうダメー。面白いこと思いついちゃったからー」
ゆっくりと個室から出てきた井岡さんの手には、おしっこの注がれたコップが握りしめられていた。
「出た出た。やっぱなんか恥ずかしいなこれ」
「恥ずかしくないよ。むしろ勇者だよ。ありがと。瑠子、それ貸して」
やめて。
「はいメアリちゃん」
「うは、あったか」
「やめてよ、恥ずかしいんだから」
やめてよ。
「じゃあ瑠子、こいつ蹴ってくるから両足抑えといて」
「はーい」
「かかったらごめんな」
やめてって言ってるのに。
「いっ、それは嫌かも……。しかも自分のおしっこでしょ」
「できるだけかからないようにするからさ」
三人に押さえつけられて腕も足も、私の力では動かす事ができなくなった。
「お願いだから……やめて……。親友だから。ね、めありちゃん」
「あっはは、めありちゃんだってー。嬉しいなあ。そう呼んでもらえて。じゃあ、めありちゃんって呼んでもらったお礼、しなくちゃね?」
「や、いや。私たち友達って。友達ならこんなことしないで……親友だから、やめて」
必死に頭を横に振って抵抗をする。
「ちょっと、頭抑えて」
腕を掴んでいる二人に頭を押さえられる。抵抗する術をどんどんと消されていく。抵抗も虚しく、鼻を摘まれる。
「んー! んんー!」
「友達なんだよ。親友なんだよ私たち。だからさ、友達のおしっこくらい飲めるよね。親友の私の言うことくらい、当然聞いてくれるよね?」
口を閉じて必死に懇願する。嫌だ、そんな友達欲しくない。お願いだから、許してほしい。
だけれど、私の行動も、意思も、彼女たちには響かない。ただ淡々と、いじめを遂行することだけを考えているようだった。
「ほーら、いくよー。じゃーっと」
暖かいものが口の中に入ってくる。鼻をつままれているのが唯一の救いだったかもしれない。暖かいその液体を飲み込まないように口の中に溜め込んでいく。どんどんと涙が溢れる。口から溢れたものは体に流れ、制服が吸っていく。早く終わってほしい。
私の息が持たなくなり、ついに飲み込んでしまった。大きく咳き込み、私が口からおしっこを撒き散らし始めて、私を掴んでいた三人が慌てて離れていった。解放された私はその場で咳き込んだ。鼻をつまんでいた手も外れて、呼吸をするたびにおしっこの匂いが鼻を通り、吐きそうになる。
「あっはっは」
日向さんは大きな声で笑った。
「きったねー。ありえねー。おしっこ付いたんだけど。しかも自分のおしっこなんだけど」
「私も瑠子ちゃんのおしっこ付いたかも」
「ふふふふ、飲んだよ、おしっこ飲んだよ」
「うわ、きいだけ無事じゃん、ずるー」
「まあまあ、洗えば済むんだから落ち着いて」
日向さんが慌てふためく三人をなだめる。
「それにあんまおっきい声出すと誰か来るかもしれないし」
「あっ、そっか」
「しーい」
四人は一緒になって口の前に人差し指を当ててこっちを見た。
「汚いからいったん洗っちゃお」
日向さんはおしっこまみれになった私にホースで水をかけた。満遍なく、綺麗に私の体を洗い流すと、また三人に私を拘束させた。
「じゃあ、本日のラストはー」




