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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと日向芽有
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日向さんたちだ

 翌日。もう一つある綺麗なセーラー服に袖を通して姿見の前に立った。昨日のぐしゃぐしゃになったセーラー服は今は干されて乾かされている。


「あ、リボン忘れて……」


 違う、そうだった。リボンは昨日破られたんだった。リボンつけないで出かけるの、お婆ちゃんにリボンもらってから初めてかもしれない。


 悔しくて涙が出る。私の一番の宝物だったのに。それに友達ノートも。机の上の破られたノートのパーツは大分乾いていた。帰ってくる頃にはもう完全に乾いてるだろう。そうしたらセロハンテープで繋げよう。それから、学校にはもう持って行かないようにしよう。それがいい、また破られるのは嫌だから。


「いってきます」


 学校に登校してきて靴から上履きに履き替えるために下駄箱から上履きを取り出して違和感を覚えた。また何か靴の中に入っている気がする。上履きの中を覗いてみるとまた中には大量の画鋲が入っていた。胸にちくりと傷みが刺す。


 多分日向さんたちだ。本当に私が画鋲に気づかずに靴を履いていたらどうするつもりだなんだろう。私は前と同じように近くにあったゴミ箱に画鋲を全部捨てて上履きを履いた。


 はぁ……。


 教室に入るのが億劫になる。きらなちゃんはお休みだし、ここちゃんたちは多分遊びに行ってしまっている。せっかく友達ができたのに、私が教室で一人ぼっちなのは変わらない。楽しくない時間が今から流れるんだ。


 で、でもでも、きらなちゃんは月曜日には帰ってくるから。それまで待ってないと。


 きらなちゃんが来たら、きっと私を助けてくれる、守ってくれるんだ。それまで私一人でも頑張るんだ。きらなちゃんが帰ってきた時に、きらなちゃんを一人にできない。


 気合を入れて教室に入ると私の机の上がキラキラと光って見えた。近づいて見てみるとその正体はまた画鋲だった。机の上だけじゃなく、椅子の上にも大量の画鋲が敷き詰められていた。



 はあ……。


 私は本当に悲しい気持ちになった。どうして私ばっかりこんなことをされないといけないんだろう。周りのクラスメイト達は見て見ぬ振りをしてお喋りをしている。日向さんたちが私を狙う理由はあるんだろうか。私の隣の席の人でも、もっと別の誰かでもいいんじゃないんだろうか。私以外の人にしてくれれば私は幸せに過ごせるのに……。

 そうだ、みんなそう思って、私に関わろうとしないんだ。外から何事もないような視線を私に送るんだ。きっと私も他の人たちと同じだ。誰かがいじめられていても見て見ぬ振りをする。中のいい友達じゃない、よく知らない、いじめられている人と関わって自分も巻き込まれたら嫌だから。


 教室の後ろからゴミ箱を持ってきて、椅子の上の画鋲を集めて捨てる。ジャラジャラと言う音が、綺麗に光る画鋲を捨てているという罪悪感を大きくする。でも、だって、これ以外方法が見つからないから。自分に言い訳をしながら真新しい画鋲を捨てていると、私の周りに人が集まってきた。


「あーあ。せっかくの私達からのプレゼント捨てるとか酷くねー?」

「そうよ、せっかく私たちが朝早くに来て綺麗に並べてあげたのにさ」

「高かったのになあ、画鋲。まだ新しいのに捨てちゃうんだ」


 日向さんたちだ。


 私は聞こえないふりをして、机の上の画鋲も全部ゴミ箱の中に捨てた。

 ゴミ箱を教室の後ろに戻して席に座る。私の周りには未だに日向さんたちがいる。早くどこかに行ってほしい。


「無視かよ。なあ」


 頭を殴られた。暴力は嫌いだ。


 痛いから嫌いだ。


「そういやいつものリボンどうしたの? 今日つけてないじゃん。って、あーそうだった昨日破れちゃったんだよね。ごめんごめん」


「あははは」と四人が笑う。私の大切な宝物を壊しておいて、平気で笑っている。私一人相手に四人で寄ってたかっていじめる。ずるい。嫌だと思っても席を囲まれている私には逃げ場はなかった。


「じゃあまた放課後ねーたかしちゃん」


 ぞろぞろと列になって教室から出ていった。絶対に見つかる前に早く帰ろう。そう思った。


「え? どこいくの?」


 今日最後のホームルームが終わり、日向さんたちに見つからないように教室を出ようといつもと違ってみんなに紛れて教室のドアの前まできたところで、腕を掴まれた。

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