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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと日向芽有
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この靴お気に入りだったんだよね

 いまだにビタビタと体に張り付く制服を脱いで、茶色く汚れた下着を脱いで、お風呂場に入った。シャワーを出して、暖かくなるのを待ってから頭にかけた。


「うううっ、ひぐ。ひっぐ。うう」


 次々と頬を流れる涙は温かいシャワーに流されて消えていく。涙と一緒に悲しい思いも洗い流すように、私はいっぱい泣いた。暖かくて気持ちいいシャワーが、優しく私を包んで洗い流してくれた。


「お母さん。ごめんなさい」


 お風呂を上がって髪をタオルで拭きながらお母さんに謝った。


「ううん。本当に大丈夫? いじめとかじゃない?」

「違うよ! 本当に遊んでただけなの」


 お母さんに嘘をついて、また胸が痛くなる。だけど、頑張るって決めたから、ここで挫けるわけにはいかなかった。


「お婆ちゃん。これ、直せる?」


 お風呂の中で優しく手洗いをしたリボンをお婆ちゃんに渡した。


「うんうん。直してあげようねえ。材料が足りないから少し日にちはかかるけど、待っててね」

「ありがとうお婆ちゃん! そうだ、靴! 前履いてたのが残ってたような……」


 から元気だけれど足取りがいつもより軽い。多分今まで経験したことのないようないじめに理解が追いついてないんだと思う。

 悲しいしお腹も足も腕も痛いけれど、今日あった事がよく分からないの方が強かった。こんなことが二日も続くわけがないと心のどこかで思っている自分がいた。


「あったあった」


 少し埃の被ったスニーカーが出てきた。引っ越しの時に捨ててなくてよかった。


 この靴お気に入りだったんだよね。


 赤い生地にNのロゴが入ったちょっと格好良くて可愛いスニーカー。履くのは久しぶりだった。


「入るかな」


 半年ぶりくらいに履く少し古びたスニーカーは、ちょっと小さかったけれど入った。


「よかった。お母さん、靴あったよ。またお休みの日に買いに行こ」

「大丈夫? キツくない?」

「ちょっとキツイけど、あれくらいなら大丈夫」


 破られた友達ノートを机の上に広げて乾かすことにした。もう全然読めないけれど、それでも私の宝物には変わりがない。


 夜、ご飯を食べた後にちゃんと歯磨きをしたのにまだ少し砂が口の中に残っているようなジャリッとした感覚があった。あんな泥水の飲んだのは初めてだった。

 私にあんなようなことをして、日向さんたちは楽しいのだろうか。すごく笑っていたけど、こんなことをして楽しめる人間にはなりたくない。あの撮られた写真はどうなるんだろう。消してもらえるのかな。いろんなところに広められたらどうすれば良いんだろう。悔しい。そう思った。


 本当に、今日起きた事は私には規模が大きすぎた。涙も出てくるけれど、何だか悲しくないんじゃないかとすら思えてくる。明日も日向さん達は私のところに来るのかな。


 明日はもっとちゃんと帰るって言おう。そんで、捕まらないうちに帰るんだ。


 私は決意を込めて眠りについた。


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