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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと日向芽有
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私はホッと胸を撫で下ろした

 インフルエンザという言葉が次第に私の頭で理解され始めた。


 そうか。きらなちゃんはお休みなんだ。来週の月曜日までずっと……。


 寂しくなるなあ。


 そう思うと急に心細くなってきた。きらなちゃんがいない間、私は学校でどうすればいいんだろう。まだ友達になっていないクラスメイトと話ができるほど私の人見知りは直ってないし、きらなちゃんがいたらお話しできるだろうけど、そのきらなちゃんがインフルエンザでお休みになってしまっている。


 もしもラッキーなことに誰かが話しかけてくれたら、お返事はできると思うけど、それまでずっと下を向いて座ってればいいの?


 そんな人間に誰が話しかけたいだろうか。ここちゃんや阿瀬君は休み時間になるとどこかへ走っていってしまう。多分サッカーとか鬼ごっことかしてるんだと思うけど、運動音痴の私はそこには混ざれない。そういえば私のプロフィール帳渡さないと。でもすぐどっか行っちゃうからなあ。


 それに、もし日向さんたちにいじめられたりとかしたら……。


 ううん、大丈夫。こう見えても強くなったんだ。きらなちゃんと友達になってから、今までの私じゃ考えられないことをいっぱいした。いじめられたって負けない。阿瀬君とも約束したんだ。きらなちゃんのためにいじめに負けないって。きらなちゃんが戻ってきたら笑顔でおかえりって言えるように。何があっても私は頑張る。それにまだいじめられるって決まったわけじゃないんだから。まずは誰かに話しかけて、新しくお友達になるところからだ。


 誰にもバレないくらい小さく両手で自分に頑張れを送った。それから不思議なくらい何事もなく授業が進んで、終わりのホームルームが終わった。


「先生、これ、朝渡すの忘れてました」


 雲藤先生に入部届を渡した。


「お、おっけーおっけー。じゃあ活動は明日からだな。頑張れよ」


 そっか、明日からか。きらなちゃんいないけど、大丈夫かな。後輩のみんなとは、仲良くなれたとは思うけど、ちょっと怖いなあ。でも、頑張らないと。


 結局、今日は誰にも話しかけることが出来なかった。ここちゃんとは何度か挨拶したけど、プロフィールは渡しそびれちゃったし、教室の誰にも話しかけることなくずっと俯いたまま休み時間を過ごしてしまった。

 もっと頑張れると思っていたのに、私はまだまだだった。


 きらなちゃんがいないとなにもできないのかもしれない……。


 こりゃダメだと思った。もっと頑張らなきゃ。


 それでも、本当に良かったこともあった。今までのことを考えると日向さんたちにまた何かされるだろうと思っていた。もしもいじめられたらどうやって乗り越えようかとそればかり考えていたことも、誰にも話しかけに行けなかった原因かもしれない。けれど本当に何もなかった。

 気がつけばあっという間に全部の授業が終わった。おかげで授業にちゃんと集中できなかったけど、ノートはちゃんと取れたし、先生の話もある程度は聞けた……と思う。


 本当に良かった。明日もきっと何事もなく、こうやって日常が過ぎていくんだ。


 私はホッと胸を撫で下ろした。


 日向さんたちが私の所に来なくて本当によかった――。


 私は教室から人がいなくなるまで、いつものように待っていた。



「ちょっと顔かしてくれる?」


 四人組の女の子が近寄ってきて声をかけてきた。日向さんたちだ。


「なに? また無視ですかー」


 なんで? 


 どうして?


 後はもうお家に帰るだけなのに。それなのに何で日向さんたちは私を取り囲んでるの?


 やめて。お願い、帰して。そのまま何事もなくいさせてよ。


 私は知っている、この子たちは私をいじめて楽しんでいるいじめっ子たちだ。ちらりと日向さんの顔を見て心臓がキュッと小さくなるのを感じた。


「そんなに帰る準備大変なの? 手伝ってあげよっか」

「私も手伝ってあげるー」

「だ、だいじょうぶです」

「あっそ、じゃ早くしてね。私たち待ってるからさ」


 日向さんは私の前の席に座って足を組んで、梁さんや根波さんたちと談笑し始めた。


 私に用事って何?


 断りたい。キッパリと断って今すぐにお家に帰りたい。しかし考えても私には断る理由が見つからない。何か何かと理由を考えたけど全然いいのが見つからない。素直に嫌って言えばいいのかな。そしたら、もしかしたら諦めてくれるかもしれない。そんなわけないけど、でも、もしかしたら許してくれるかもしれない。


「あの。日向さん……」


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