怒られるのは楽しくて、嬉しかった
「さ、私たちも帰ろっか」
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。今日寝坊しなければ、もっといっぱい遊べたのになあ。後悔しても遅いのに私はうんと後悔した。
もっと遊びたかったなあ。と言う気持ちを抱えながら、きらなちゃんと阿瀬君と縫合君にバイバイをした。
「なに言ってんの。たかしちゃん家まで送ってくよ。ね?」
「いや、俺は帰るぞ」
「僕も流石に帰るかなあ」
「なによ! 甲斐性なし! いいわよ! 私一人で送ってくわよ!」
「じゃ、バイバイ」
阿瀬君と縫合くんと別れて、きらなちゃんと帰り道を歩いた。
「きらなちゃん、いいの? 私一人でも帰れるよ?」
「いいのいいの。私がたかしちゃんと居たいだけだから。それよりみんなどうだった?」
「うん、みんなすっごくいい人だった。みんな大好き」
「そか、よかったよかった。みんなたかしちゃんのこと、守ってくれると思うから。安心しなさいね」
「うん、私も、みんなのこと、守りたい」
「おおっ、じゃあたかしちゃんに守られよーっと」
「ふふふ」
「あははは」
帰り道は風が吹いて少し寒かったけれど、すごく楽しかった。あっという間に家に着いてしまった。
「よし、私の役目はここまでっ」
「ありがとーきらなちゃん」
「じゃあまた月曜日ね!」
「うん! 月曜日!」
「入部届忘れないようにね!」
「うん! 忘れない!」
「じゃあね!」
「じゃあね!」
「あ! 月曜日、七時四十分集合ね! 今度は遅刻しなからね!」
「うん!」
「じゃあね!」
「じゃあね!」
きらなちゃんは、走って帰っていった。私はやっぱり見えなくなるまで背中をずっとみていた。
「何があったの!」
家に帰ると案の定お母さんに大目玉を食らった。びしょびしょで帰ってきた私をみていじめられたと勘違いしたらしい。
「違うの、これはみんなで遊んでて、水風船とかホースとか。それから、えっと」
「ばか! えっとじゃない! 違うじゃない! そんなびしょ濡れで帰ってきたらびっくりするでしょう!」
少し悪いことをしたのに、友達と遊んだことでお母さんに怒られるのは楽しくて、嬉しかった。
ぶつぶつとおこりながらもお母さんは大急ぎで湯船にお湯を張ってくれて、私はゆっくりと暖かいお風呂に浸かった。今日は私が一番風呂だった。
「ふうー。いい湯でした」
「いい湯でしたじゃないわよ。今度びしょ濡れで帰ってくる時は先に言っておきなさい。びっくりするから」
「はあい」
お風呂に入ってる間に、ご飯ができていた。今日のご飯は野菜炒めだった。
「いただきまあす」
「はいどうぞ」
「あのね、今日またお友達が増えたんだよ」
「よかったねえ、あの男の子でしょ?」
「うん、竹達君っていうの」
「忠君ね。彼氏じゃないの?」
「ばか! 違います! お友達です!」
「じゃあ好きじゃないの?」
「そ、そりゃあ、好きだけど」
「ふーん、好きなんだー」
「違うの! だって、阿瀬君と縫合君も好きだもん!」
「うわー、浮気者だー」
「だから違うって! もう! お母さんのばか! 私恋愛とかわかんないもん!」
「そっかそっか。で、みんなどんな子なの?」
「竹達君はね、ぬいぐるみが好きなんだって。私のぬいぐるみ見て、可愛いって言ってくれたの」
「そうなんだー、ふーん」
「もう! そんなんじゃないから! それで、阿瀬君はきらなちゃんのことが好きなんだと思う」
「あら、きらなちゃんね。かわいかったわねあの子。確かに不良っぽかったけど」
「でも全然不良じゃないの。そんでね、縫合君って人が、六人兄弟の長男なんだって! すっごい気がきくの。それに手芸部らしい! と言っても服を作ることしかしないらしいんだけどね」
「なるほどねえ」
「お母さん?」
私は怪しいお母さんを睨んだ。すぐに恋愛に結びつけようとしている。みんなは友達だ。そんなことは絶対ないんだ。
「お婆ちゃん、お母さんがいじめる」
お婆ちゃんに助けを求めると、お婆ちゃんが頭を撫でてくれた。竹達君に頭を撫でられたことを思い出して、恥ずかしくなる。
「ごちそうさまでした」
部屋に戻って友達ノートを見る。みんなの好きや嫌いがいっぱい書いていて、胸がキューッとなる。
「そうだ」
私は自分のノートを取り出して、五枚ちぎった。
そのちぎったノートに私の好きなこと、嫌いなことをおんなじように書き込んだ。
月曜日、みんなに私のノートを渡そうと思う。みんな喜んでくれるかな。
月曜日が待ち遠しかった。




