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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんときらなちゃん
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雨降りの後みたいに

「ごめんたかしちゃん、蹴人に当てるつもりだったんだよ」


 謝るきらなちゃんの両手にはパンパンに膨れた水風船があった。


 なるほど、これが私に直撃したんだ。グラウンドではすでにここちゃん対竹達君縫合君の水風船の戦いが始まっている。


「たかしちゃんもおいで。楽しいよ。あいつらいつの間にか金子さんで水風船買ってやがんの」


 きらなちゃんは水風船の一つを私に渡して私の手を引いた。グランドまで行くとまた一つ水風船が私にあたって弾けた。


「にゃっ」

「あ、ごめ」


 阿瀬君が申し訳なさそうにごめんなさいのポーズを作っている。もう私はびしょ濡れだった。もうここまで濡れてしまってはお母さんに絶対怒られる。きらなちゃんにもだけど阿瀬くんにもやられたままでいるわけにはいかない。やり返さないと。


 てい。


 と持っていた水風船を投げてみたけど、当たり前のように阿瀬君の元には届かず、地面にあたって、割れずにぽよんとバウンドした。


 ふふふ、あまりにもおかしくて笑ってしまう。


「たかしちゃんこっち。私が守ってあげるから!」

「うん!」


 きらなちゃんに呼ばれて水道まで走る。その途中でもう一個ぶつけられた。


 だれだー!


「ほら、ここに弾があるから投げて抵抗しよう!」

「おい、水道占拠はなしだろ」

「ふふん! 早い者勝ちよ!」


 もう私たちは誰一人として濡れることを気にしていない。みんながずぶ濡れになって水風船を投げ合った。


「えい。えい」


 私の投げた水風船は一つも誰かに当たることはなかった。何度投げてもみんなに届かなくてぽよんと跳ねたり、その場でパシャリと割れた。


「ほら、あんたたち、いくわよ!」


 きらなちゃんはすごい、すごい精度で阿瀬君たちに当てている。ここちゃんはこっちにきて水風船を投げたり、あっちにいって水風船から逃げたりして楽しそうだった。


 何度も何度も投げていると水風船はあっという間になくなった。

 水風船の投げ合いは、ちょっと仕返し合いの喧嘩みたいで、すごく楽しかった。


 きらなちゃんがついに蛇口に手を当てて水をホースみたいに飛ばし始めた。近くにた私にはそれはもう綺麗に水がかかり、完全にずぶ濡れになった。きらなちゃんは器用に阿瀬君たちを水鉄砲のようにして狙った。


「綺羅名てめえ」


 阿瀬君は濡れるのも顧みずきらなちゃんに突進をした。そして水道の蛇口に手を当てて、きらなちゃんをずぶ濡れにした。


「今度は俺の番ー」


 阿瀬君を退けて竹達君が水道を占拠した。


「ちょっと待ってて」


 きらなちゃんがびしょ濡れのまま公園を出て、きらなちゃんの家に走っていった。


「ほらみて、いいもの持ってきたわ」


 それは、ホースだった。ホースを水道の蛇口に取り付けると、ホースの先を持って、きらなちゃんが追いかけてきた。

 逃げた。逃げたけど追いつかれて、頭から水をかけられた。リボンもびしょ濡れになってしまった。


「貸せっ」

「あ、私専用よぼぼ」


 奪い取られたホースで顔に水をかけられて、きらなちゃんの声は遮られた。


 多分、三時間位、水で遊んでいた。公園はもう雨降りの後みたいにびしょ濡れになっていた。


「ふー。パンツまで濡れちゃったわ」


 きらなちゃんはスカートの中を覗きながら笑っている。ここちゃんは男の子たちと一緒に上半身裸になってTシャツを絞っている。


「こんなことなら着替え持ってくれば良かったなー」

「って! ちょっとここ! あんた何やってんの! 早く着なさい! っていうかブラくらいつけなさいよ! こらエロ男子どもこっち見るんじゃないわよ」


 流石に友達同士でもここちゃんみたいにはできないと思った。きらなちゃんはここちゃんから取り上げたTシャツを無理矢理ここちゃんに着せた。


「もー、別にいいじゃん。きらきらみたいにおっきくないんだからさー」

「大きさの問題じゃない!」


 きらなちゃんはここちゃんの頭にゲンコツを食らわせた。


「ちょっとさむいな」


 気がつけば日も暮れてきていて、確かに少し寒くなってきた。


「あ。サッカーの練習のことすっかり忘れてた」


 きらなちゃんが思い出したように言う。みんなもその声を聞いて思い出した。


「で、でも。楽しかったから」


 私はみんなを励ますようにお礼をした。どうせ練習しても出来ないだろうし、こっちの方が楽しかったかもと思いながら体に張り付く服を引っ張って引き剥がす。


「ま、今度でもいっか。楽しかったもんね。みんな風邪ひいちゃだめよ」


 きらなちゃんは『自分は大丈夫』とばかりTシャツの裾を引っ張って絞ってお腹を出している。


「でもそろそろ帰ったほうが良さそうだな。どんどん寒くなりそうだし」

「そうだねー。僕もちょっと寒いかも」

「じゃー帰るかー。次は月曜日だな。たかし、またぬいぐるみ見せてくれよな」


 濡れた私の頭に竹達君は手を置いた。むっ、また思考を読まれる。と思って手を払いのけた。


「あっはっは。じゃーな」

「じゃあ僕も帰るね。また月曜日―!」


 竹達君とここちゃんは自転車で帰って行った。後ろ姿を見ると、すごく悲しくなった。


 風が吹いて体が震えた。


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