あの公園に行けば
誰も知らないかもしれないけれど、御城さんのことを聞いてみた。
病院はここから近くないけれど、もしかしたら同じ学校かもしれない。もしかしたらB組にいるのかもしれないと思った。だけど、私の予想は少し外れていた。
「御城麗夏って、あの御城麗夏のことか? 去年引っ越したけど……。たかし知り合いなのか?」
阿瀬君が答えてくれた。なぜか少しみんなの空気が重たくなった気がする。
「うん。こっちに引っ越してくる前に公園で会って。その時またねって言ったから、会いたくて」
「そうか。つってもなーどこに引っ越したか俺は知らねえしな」
「僕も知らないな」
「俺も」
「麗夏とは一年の時に今みたいによく遊んでたんだよ。綺羅名と同じ水泳部だったし。ただ急に引っ越しちまって、そっからは全然分かんねえわ」
きらなちゃん、水泳部だったんだ。今は天文部だよね。どうしてやめちゃったんだろう。
みんな、御城さんのことは知ってたけど今はどこに住んでるのか分かんないみたいだった。
「そうだ。もし会いたかったらその公園に行ってみれば?」
そうか、その手があった。もう一度あの公園に行けばいいんだ。
「そうだ、その公園で夕焼けをよく見にくるって言ってた」
「じゃあ夕方の夕日が沈む時が狙い目だね」
そっか、あの公園に行けば、また会えるかもしれないんだ。縫合くんは頭もいい。
また会えるかもしれないと思うと緊張した。一人で行くには少し遠いところにある公園は、遠いけれど、近くに感じた。
「きらなちゃ」
「さっ! みんなオッケー? もう食べたよね? じゃあ次はサッカーしましょ!」
きらなちゃんは少し悲しそうな顔を浮かべながら、その顔を隠すように大きな声で私の声を遮った。その声に合わせてここちゃんと竹達君と縫合君が揃ってグラウンドに行った。
「たかしちゃんも蹴人も早く来なさーい」
「はいはい」
きらなちゃんの呼び声に、阿瀬君は肯定の返事をしながらブランコの周りにある柵に座った。
「たかし。ちょっと話聞いてくれる?」
阿瀬くんの顔はさっきまでとは違って真剣で、私は小さくコクリと頷いた。
「麗夏のことなんだけどさ。麗夏はな、いじめられてたんだよ。いじめの筆頭はまあ日向たちなんだけど。いじめが続くとどんどん周りも同調し始めてな。クラスで御城は孤立してたんだ。こないだまでのたかしみたいに。もし俺たちが同じクラスだったら助けてやれたかもしれないんだけど、残念ながら隣のクラスで。綺羅名とは同じ水泳部だから特に仲がよかったんだけどな。綺羅名が日向たちのいじめに気がついた時にはもう、麗夏は抱えられないくらいの傷を負っててさ。綺羅名は麗夏に何も出来ないまま麗夏は引っ越していったんだ。綺羅名は友達なのに助けられなかったって言って、それから自分を大きく見せるためかわかんねーけど髪も染めて制服も改造して。多分、たかしのことも。そりゃあ友達になりたいってのは本心だろうし、楽しくしたいってのも本心だろうけど、確実に日向たちのいじめから守りたいって気持ちが強いと思うんだ。去年麗夏を助けられなかったことは覆らないけど、今たかしを助けることはできるってな。だから、綺羅名を信頼してやってほしいし、たかし自身、簡単にいじめに負けないでやってほしいんだ。ああ見えて、繊細なんだよあいつ。麗夏の話題になると見てわかるくらい凹んだ顔になるしな」
そっか。きらなちゃんは御城さんと仲がよかったんだ。それからいじめられている私を御城さんに重ねて声をかけてくれてたんだ。
ずっと。私が無視をしていてもずっと私のことを考えていてくれたんだ……。
「うん。きらなちゃんは私のお友達だから。悲しくなってほしくないから」
「よかった。って今の話綺羅名には内緒な」
阿瀬君の真剣だった表情はほぐれ、照れ臭そうに阿瀬君は後頭をかいた。多分竹達君か縫合君のいたずらだったけれど、阿瀬君はノートの通り本当にきらなちゃんが好きなんだって伝わってきた。これが恋愛なんだって思った。じゃあ私の竹達君へのこの気持ちはやっぱり友達のものなんじゃないかと思えた。わかんないけど。
阿瀬くんのいう通り、頑張らないと。私は、きらなちゃんもそうだけど、みんなが幸せで楽しい学校生活を送りたい。だから、いじめられても負けないように……。
「ひゃっ」
冷たっ。
顔に何か当たったかと思ったら突然顔がびしょ濡れになった。お気に入りのシャツもだいぶ濡れてしまっている。お母さんに怒られるかもしれない。
「あいつら! てことで、この話は終わりな」
阿瀬君は慌てるように走ってこの場所を離れた。
その後を追うようにきらなちゃんが走ってきた。




