恋じゃないと思うけれど
時間はもう十二時四十三分だった。
「あいつら待ってるだろうから。名残惜しいけどそろそろ行こっか」
「うん、金子さん。私、たこ焼き食べる」
「百円以上使ってもいいって?」
「なんか昔の練習のためだったらしい。今はいいんだって」
「そっか、じゃあ買いまくろう!」
「ふふふ、お金なくなっちゃうよ」
「お邪魔しましたー」
「はーい、またいらっしゃい」
お母さんが玄関で見送ってくれた。出てこなくてもいいのにって思ったけど、私の初めてのお友達で、お母さんも楽しいのかなって思ったら許してやらないでもなかった。
「おまたー。たこ焼き焼けてるー?」
金子さんの前に阿瀬君と縫合君が立っていた。
「お、どうだった?」
「楽しかったわ。最高よ」
「忠は?」
「一言で言うなら天国だな」
「そりゃよかった」
「今とりあえずみんな六個頼むかなと思って、三十六個焼いてもらってる。多分もうすぐ焼けると思う」
「何? 蹴人のわりに気が利くわね」
「言ったのは僕だけどね」
「やっぱ一なのね。そーだと思った」
「ここは?」
「中でお菓子見てるわ」
「そ、たかしちゃん、私たちも入りましょ」
「うん。阿瀬君、縫合君、ありがとう」
「いいよいいよ」
「どういたしまして。焼けたらまた呼ぶよ」
縫合君は六人兄弟の長男だけあってとても気がきく人だった。私も長女だけど、そこまでみんなのことを考えられるとは思わない。すごいなあと思った。
金子さんの中に入ると外の声はほとんど聞こえなくなった。だけど竹達君がいじられているのはわかって、見られていないのに私はとても恥ずかしくなった。
恋じゃないと思うけれど、なんだか意識しちゃう。
お母さんが彼氏とか言ったせいだ。
「ここ、何かうの?」
きらなちゃんが私に小さな籠を渡してくれた。ありがとう。と言ったけれど、ここちゃんの声で多分かき消された。
「んーあわだまとーおとくでっせとーグレープ餅とー」
「やっぱり当たり付きは買うわよね。さー、何買おっかなあ。たかしちゃん何にする?」
「えっと、チョコバット。食べてみたい」
「そうだったそうだった。食べたことないんだよね。これこれ、これがチョコバット。他は? 何かうの?」
「たこ焼き食べたらお腹膨れちゃいそうだから、どうしよっかなあ。べアーズグミとモロッコヨーグルと。クッピーラムネ」
「だけ?」
「だって、たこ焼き食べるし……」
「蒲焼さん太郎は?」
「なに? それ」
「美味しいから食べてみって」
きらなちゃんは私の小さな籠の中に蒲焼さん太郎を入れた。
「べアーズグミもう一個買おう」
「私はヤッターメン三つ行くわ。これで元を取るのよ。あとはチョコ系ねー」
みんなでたくさんの駄菓子の中から一つ一つピックアップしていくのは楽しかった。駄菓子屋は一人できても楽しいけれど、みんなで来ればもっと楽しいんだと思った。
「たこ焼きできたぞー」
引き戸を開けて阿瀬君が顔を出した。




