似てないと思うんだけどなあ
「わわあ、こんにちは」
お母さんが居間から顔だけを出した。
「ちょっとお母さん、恥ずかしいからやめて」
私は手を縦に振ってしっしっとやった。もう出てこないでって意味だったのに、お母さんは立ち上がって玄関まで出てきてしまった。
「おっきいねえ」
竹達君は玄関の段差を足して、お母さんと同じくらいの身長だった。
「ついにたかしちゃんが男の子を連れてきたわ。彼氏でいいの?」
「もう! お母さん違う!」
ばかばか。彼氏なんかなじゃいよ。
お友達。
恋愛なんて考えたことなかったのに、お母さんのせいでなんか変に意識しちゃうようになるでしょ。さっき頭撫でられたのも、なんだかとてもえっちな感じに思えてしまう。
「なんだ、候補かー。いらっしゃい。で、あなたが綺羅名ちゃんね? 話はよく聞いてるわ」
「はい、吉良綺羅名です。いつもたかしちゃんにはお世話になってます。今日はちょっとだけ家に上がらせてもらいます。よろしくお願いします」
「あらまあ」
きらなちゃんが丁寧に丁寧に挨拶をした。きらなちゃん、すごいなあ。私もきらなちゃんの家に上がらせてもらう時はこうやってしないとな。
「じゃ、上がって上がって。あ、男の子の方はお名前なんて言うの?」
「竹達忠です。お邪魔します」
「忠君ね。お茶飲んでく? お菓子もあるわよ」
「ちーがーう! 二人とも私の部屋に用があるの! お母さんは居間で静かにしといて!」
「はーい。ゆっくりしていってねー」
お母さんは私たちが階段を上がるのを見送ってから居間に戻っていった。
「たかしにめっちゃ似てたな……」
「リボン付け替えたら間違えちゃうかも……」
「そ、そんな似てないよう」
「いや似てる」
「うん、似てる」
「そうかなあ」
よく似てるって言われるけど、そんなに似てるかなあ。似てないと思うんだけどなあ。
「えっと、汚いけど、ごめんね?」
私はゆっくりと引き戸を開けて、中に入った。二人もついて入ってくる。
わあ、お友達が。お友達がお部屋に入ってきた。
「すっご! 綺麗! 可愛い部屋だね! 私の部屋片付けないとたかしちゃんに見せらんないな」
「そういや俺、女子の部屋はいるの初めてかも」
「そうなの? 意外ね」
うう、恥ずかしい、男の子が私の部屋に入ってる。えっと、なんだっけ。なんだっけ。そうだ、ぬいぐるみだ。
ベッドの横に積み上げられたぬいぐるみを指差して「これが、私の作ったぬいぐるみ」といった。
「うお、すげえ、めっちゃ可愛い。これ全部自作?」
「うん、自作。まだ簡単な形しか作れないけど……」
「この黒猫のぬいぐるみとかめっちゃ可愛い」
「忠、あんたぬいぐるみ好きねえ」
「可愛いじゃん。癒されるんだよなあ」
「まあ可愛いけどさ。少女趣味ねぇ」
「うるせえ、いいんだよ。俺は別に隠さねえよ。好きなものは好きだ。なあ、触っていい?」
「いいよ。あのね、竹達君、私今しゃーくんのぬいぐるみ作ってるの」
「しゃーくんってあの? 俺ほおじろしゃーくん好きなんだよね」
「わっ、ほんと? 今ほおじろしゃーくん作ってるの!」
「まじ? 出来たらまた見せてよ!」
「うん! 頑張って作る! 待ってて!」
「おい忠! 何私より先に次の約束取り付けてるのよ」
「いや、別にそんなつもりはないんだけど」
黒猫のぬいぐるみを抱きしめながら竹達くんが言った。
「そもそも何勝手に抱きしめてるのよ」
「いや、つい」
「いいよ」
私は竹達くんに許可を出した。私のぬいぐるみを大切に扱ってくれて、とても嬉しかった。
「いいもん、私はたかしちゃん抱きしめるもん!」
きらなちゃんは私に抱きついた。ぎゅーってされて、とても幸せな気持ちになった
「羨ましいでしょ。あんたにはやりたくても出来ないもんね」
「いや、なんの争いだよ」
「どうだった。私の部屋とぬいぐるみ」
「めっちゃよかった。また来てもいいか。次はしゃーくん見せてくれ」
「うん、もちろん。ありがとう、竹達くん」
また頭を撫でられた。今度はなんだか悪い気はしなかった。
「私だってまた来るわ。来週もくるわ」
「うん、いいよ。私もきらなちゃんち行きたい」
「おいでおいで。いつでもおいで!」
「うん!」




