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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんときらなちゃん
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私史上一番頑張ったかもしれない

「なあ、よく考えたらさ。俺たちのことをたかしは知れるけど、俺たちはたかしのこと全然知らないぞ」

「確かに、せっかくだからちゃんと教えてほしいね」


 阿瀬君と縫合君が私の方を見た。確かに、私ばっかり教えてもらってみんなに私のことを何一つ教えていない。みんなには私のことを知ってほしいと少し思った。でも恥ずかしくてなかなか言葉に出来ない。


「確かに、私ももっとたかしちゃんのこと知りたいわ」


 きらなちゃんがどうしようかと頭をひねる。


 ここで、私がちゃんと自己紹介をすれば、みんな私のことを知れるし、きらなちゃんがどうしようって考える必要もない。


 私が、頑張れば。


「あの」


 勇気を振り絞って。頑張って、声を出した。


 自分のことを知ってもらうのは怖いけど、みんな自分のことを教えてくれた。友達だから、私の大切な友達だから、私のことを知ってほしいと思う。


「私は、転校生です。前は東京に住んでいて……前の学校では友達はいなかったです。お婆ちゃんが病気で倒れて、ここに引っ越してくる事になりました。好きなことはお裁縫で、ぬいぐるみを作るのが好きです。えっと、竹達くんとはぬいぐるみの話をしたいなって思いました。それから好きなご飯は、お婆ちゃんの作るお芋の煮っ転がしで、嫌いな食べ物は梅干しです。酸っぱくて苦手です。みんなとはお友達になりたいです。もっと、聞きたいことがあったらなんでも聞いてください」


 深々と、大きく頭を下げた。頑張った。私史上一番頑張ったかもしれない。


 縫合君が拍手をしてくれた。それにつられて他のみんなも拍手をしてくれた。きらなちゃんは嬉しそうに抱きしめてくれた。


「じゃあさ、せっかくだからみんなでみんなの聞きたいこと聞く大会でもしようよ。僕は高橋さんに都会の暮らしってどんなのか聞いてみたいし。高橋さんも僕達に聞きたい、ノートに書いてないことがあるだろうし。どうかな」

「いいねそれ! じゃあみんなでお話ししよう!」


 きらなちゃんが手を叩いて、東家のベンチや石のテーブルにみんなで腰掛けて、輪になった。


「じゃあさ、まずは東京の暮らしについて聞かせてほしいな。僕たち、こんな田舎だからさ、気になるんだよね」


 前の暮らしかあ……。


「私、あんまり外に出ることがなかったんだよね……。だからあんまりこっちの暮らしと変わらない気がするんだけど、でも違うところって言ったら、コンビニが全然ないことかな。それとお店も小さい。向こうは車で移動してたらすぐにコンビニが見つかるし、お店もおっきくて、中にいろんな店舗がいっぱい入ってるの。服屋さんとか雑貨屋さんとか。学校は別に変わんないかな。私はマンションに住んでたんだけど、こっちにはあんまりマンションとかないなあって思う。それくらい……かなあ?」


 縫合くんが興味深げに聞いてくれた。他のみんなも「へえ」って言いながら聞いてくれた。


「コンビニかー、コンビニなんて大通りまで出ないとないもんなー」

「マンションとか住んでみたいよな。羨ましい」

「あっ」


 そうだ、まだあった。


「こんなに大きな公園はなかったよ。だから、サッカーとか野球とか?出来ないと思う」

「まじ?」

「ここサッカーし放題だもんな。たまに怒られるけど。でも、田舎と都会でやっぱ違うんだなー。都会には憧れるけど、サッカーできなくなるのは辛いから田舎で良かったわ」

「僕は都会行ってみたいな。って言っても、そんなこと絶対できないけど」

「縫合くんは六人兄弟なんだよね?」


 私は聞いてみた。勇気なんて出さなくても、すんなり言葉が出てくる。これが友達なんだ。


「うん。弟が三人と妹が二人。そのうちの妹がまだ0歳なんだよね。父親は仕事でいないから、ご飯作ったりするのは今は僕の仕事だね。手芸部に入ったのも、端材とかもらえるし、それで服とか作ったりして家計の足しになるかなあって感じかな。まあ、変わってるよね。別に裁縫が好きってわけではないかな」

「すごい、ご飯とか縫合くんが作ってるんだ。私、お裁縫はできるけど、料理はまだ全然できないから尊敬する!」

「身長も相まってまるで女だな」

「何? 忠。僕気付いてるんだからね。言ってもいいんだよ」

「な、なんだよ。言ってみろよ」

「忠、高橋さんのこと、可愛いと思ってるでしょ」


 あう。私?


「はあ、そ、そんなことねえだろ。普通だよ普通。なあ?」


 私に向かって竹達くんが聞いてきた。えっ、私は知らない。竹達くんの顔が赤くて、私もなんだか恥ずかしくなる。


「女とか言うからだよ」

「か、可愛いっていうか。裁縫が得意って言うからそれが気になっただけだし。ぬいぐるみは好きだからな。作ってんのかなあとか」

「少女趣味は忠じゃん。ぬいぐるみって」


 縫合くんがぷぷっと笑った。


「いいだろ、好きなものは好きなんだよ」

「好きってたかしのことをか?」


 今度は阿瀬君が竹達くんのことを茶化した。


「だっ、違うって。それにそんなこと言ったらお前だって綺羅名のこと。ぐっ」


 阿瀬君が竹達くんのお腹を殴った。痛そう。とっても痛そうだった。


「わかった、悪かった。だからこの話はやめよう。ここの話をしよう」

「そうだな、ここの話をしよう」

「僕の話?」

「そうそう、ここの話」

「まって!」


 きらなちゃんが、わたわたしている男の子たちを一言で制した。すごい気迫だった。


「蹴人が何って?」


 きらなちゃんはちょっと怒り気味に竹達くんに詰め寄った。


「いや、だから、ほら。あれだよ。なあ?」


 竹達くんは縫合くんに話を振った。


「いや、僕は何にも知らないよ」


 するりと縫合くんは竹達君の言葉をかわした。


「蹴人くん。後でお話があります」

「は、はい」


 きらなちゃんはなんだか怒っているみたいだった。きらなちゃん、どうしたんだろう。


「っさ、まあ、話は盛り上がってますが。お昼どうする? 帰る?」

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