私たちは親衛隊よ
「こら蹴人! いくらここが男っぽいからってエロはダメでしょうが! セクハラよ!」
いったい今の会話のどこにえっちな事があったんだろう。
そういったことは恥ずかしくてあまり知らないようにしている私にはわからなかった。真相は恥ずかしいから聞かない事にした。
「はぁ、普通の会話だろ。ここなんて男みたいなもんなんだから……」
「ダメなものはダメよ! 一線を引きなさい」
「でも、部活とか着替えるのは一緒だぞ?」
えっ、ここちゃん、男の子たちの中で着替えてるんだ。考えるだけで恥ずかしくなる。
「こーこー、ダメでしょ。そもそもあんたはブラつけなかったりするんだから、着替えは隠れてこっそりしなさい」
「だってあれ、締め付けてくるんだもん。それに早く着替えたいし……」
「大丈夫だよ。俺たちここの裸見ても興奮しないから」
「そう言う問題じゃないわよ!」
これは多分。すごくえっちな話だ。私は巻き込まれないようにこっそりと影を潜めた。
「はい、出来たよー。こんなんでいい?」
ノートを受け取ったきらなちゃんがじっくりと眺めてからオッケーを出した。
「まあいいでしょう、じゃあはい、次書く人ー、蹴人ね」
きらなちゃんが次の人を決めて、さっきここちゃんにしたように、きらなちゃんのページを何度も見せて、書き方を指南する。阿瀬君が少し頭を捻りながらノートを書き始めた。
「書いてて思ったんだけどさ。やっぱこれすっげえ恥ずかしいんだけど。やめていい?」
阿瀬君がペンを机の上に置くと、後ろで腕を組んで見守っていたきらなちゃんを見上げた。
「だめよ。もうここまで来たんだから潔く最後まで書きなさい」
「ちっ。わかったよ」
最後まで阿瀬君は文句を言っていたけど、ちゃんと書いてくれた。
「じゃあ次、忠ね」
ここちゃんと阿瀬君と同じように竹達君と縫合君も書いてくれた。二人は文句を言わずに、楽しそうに書いてくれて、ちょっと嬉しかった。
「はい、みんなありがとね。このノートに書いたってことは、今日からたかしちゃんの友達だから。たかしちゃんにはやさしくすること! それから、たかしちゃんは芽有たちに狙われてるからね。私たちは親衛隊よ。たかしちゃんを守るの。わかった?」
「はーい」
みんな声を揃えて返事をしてくれた。私に何かあったら、みんなが助けてくれるんだ。私もみんなに何かあったら、助けてあげたい。私にしたら傲慢な考えかもしれないけれど、でも、絶対そうしたい。そう思った。
「はいどうぞ。たかしちゃん。友達増えたね! 目指せ百人!」
「ひゃ、百人はむりだよぉ」
「たかしちゃん、気合いよ!」
きらなちゃんが私の肩をぽんと叩いた。きらなちゃんの言葉はそれだけで、出来ないこともできるような気がしてくるから、不思議だ。
「が、がんばります……」
「ぷっ。ふははは。百人は無理だって。せいぜい多くて二十人だろ。俺だってそんなにいないし」
阿瀬くんがお腹を抱えて笑った。その光景を見て竹達くんや縫合くんも笑い始める。そんなにおかしなことを言ってしまったのかと思うと顔が熱くなってくる。
確かに百人なんて何クラス分の人数なんだろう。恥ずかしい。
「もう! それくらいの気持ちってことよ! なんでわっかんないかなぁ」
みんなに笑われて、少し悔しそうにしているきらなちゃんは可愛かった。今までだったら怖いと思っていたことも、恥ずかしいと思っていたことも、きらなちゃんと一緒なら楽しいに変わる。多分、これからはここちゃんや竹達くんや縫合くんと一緒にいても、同じように嫌だったことが楽しいに変わるんだと思うと嬉しくなった。
「みなさん。ありがとうございます」
友達と一緒にいられる幸せを感じれば感じるほどに伝えたくなって、私はみんなにお礼を言った。突然お礼を言ったからかみんな目が点になってしまった。でも、何も怖くない。
「それから、よろしくお願いします」
大きくお辞儀をした。顔を上げた時少し恥ずかしい気持ちになった。多分今、私は真っ赤な顔で笑っている。
「もっちろんよ!」
みんなの声を掻き消すくらいの大きな声で、きらなちゃんは返事をしてくれた。私の一番の友達。いっぱい友達が欲しいけど。優劣なんてつけちゃダメだと思うけど。私にとってきらなちゃんはやっぱり特別だ。
でも、それと同じくらいここちゃんも阿瀬くんも竹達くんも縫合くんも特別だ。
うーん。もうよくわかんないけど、みんなみんな大好きで、幸せだ。
ノートを開いた。今日新しく記入されたページには、みんなのことがいろいろと書いてあった。
ここちゃんはサッカーが好きで、目玉焼きが嫌いだった。目玉焼き美味しいのになんで嫌いなんだろう。後で聞いてみないと。
阿瀬君が好きなものの所はサッカーが消されて綺羅名って書いてあった。多分竹達くんか縫合くんの悪戯だと思う。
その竹達君はぬいぐるみが好きみたいで、私もぬいぐるみが好きだから竹達くんとぬいぐるみの話をしてみたいと思った。
縫合君は六人兄弟の長男で、すごいお兄ちゃんだった。
他にもいろんな情報が書かれていて、みんなのことをいっぱい知ることができた。




