表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんときらなちゃん
70/274

変な名前仲間

 突然自分に矛先が向いた。


 きらなちゃんに指名されて、咄嗟に自己紹介をしてしまう。もう遅いけれど、やっぱり自己紹介は少し恐怖心を抱く。笑われないかな。とか、嫌われないかな。とか。マイナスなことばかり考えてしまう。


「あっはっはは」


 男の子は大きな声で笑い始めた。体がビクッと反応して強張っていく。手が震えて、頭がどんどん俯く。怖い。嫌われた。馬鹿にされた。帰りたい。


 と思っていると、男の子はきらなちゃんに思いっきり頭を叩かれた。


「いってえなあ。何すんだよ」

「何笑ってんの! 笑うからでしょうが」


 きらなちゃんは阿瀬くんに対してすごく怒っていた。阿瀬君に笑われたのは辛いけれど、きらなちゃんが私のために怒ってくれるのは、嬉しかった。


「だって。名前面白いじゃん。たかしだろ。変だって、男かよ」


 阿瀬君はきらなちゃんの肩を叩きながら笑った。わかってる。自分で変だってわかってる。けれど、改めてそう言われると悲しくなる。阿瀬君は悪い人なんだ、そう思った。


「バカたれ!」


 きらなちゃんはもう一度阿瀬君の頭を思い切り叩いた。確かに阿瀬君には酷いことを言われたけれど、そこまで叩いたら脳細胞が減っちゃうと思ってしまう。


「いってえって。変なんだから笑うのが当たり前だろ。わかったって、ちゃんと自己紹介するって。俺は阿瀬蹴人。蹴る人って書いて蹴人な。で、サッカーやってる。ポジションはフォワードって言って一番シュートを打つポジションな。と言うことで変な名前同士よろしく」


 阿瀬君は、だらりと垂れていた私の手を握って握手をした。


「おいたかし、ここ、笑うとこだぞ」


 綺羅名ちゃんはやっぱり怒っていた。「変どうしって! 言いたいことはわかるけど、だからってたかしちゃんを傷つける事ないでしょ」と頭をはたいた。

 私の名前が変なのは確かで、阿瀬君はそれを笑った。だけれどそれで私を嫌いになることも、バカにすることもなく、自分も変だと教えてくれた。変な名前仲間だと言ってくれた。サッカー部で、ボールを蹴る人で、シュートで、蹴人君。確かに少し変わった名前だった。いつの間にか溢れていた涙が引いていくのがわかった。


 大丈夫だ。きらなちゃんのお友達はみんないい人だ。竹達くんはちょっと変だけど。


「あんたたちは? 自己紹介した?」

「ああ、綺羅名が蹴人を起こしに行ってる間にしたぞ」

「そ。じゃあ改めまして」


 きらなちゃんは私を指差して言った。


「私の友達、たかしちゃんよ! 友達の友達は友達ってことで、仲良くするように!」


 はーい。とみんなが一斉に声を上げる。胸の奥がキューッと痛くなったけれど、全然嫌な気持ちにならなかった。いつまでも、いつまでもその痛みを感じていたいと思った。


「今十一時ね、サッカーはお昼からやりましょ。その前に……ね、たかしちゃん。ノート持ってきた? まずはノート書くとこから始めよっか。みんなこっちきて」


 公園の中央、東屋の中にある大きな石のテーブルにきらなちゃんが私の友達ノートを広げて、まずはここちゃんを呼んだ。きらなちゃんが書いたページをよく見せて「こうやって書くのよ、わかった?」と何度も念を押した。ここちゃんはスラスラと友達ノートをかき始めた。


「自己紹介とかはいいけど、文字で書くのはちょっと恥ずいよなー。女子ってなんでこういうの好きなんだろうな」

「何言ってんだ。忠はぬいぐるみ好きの乙女趣味なんだからこういうの得意分野だろ」

「うっせ」

「僕は別に全然書けるけどなー」

「一は女みたいな身長だからな」

「忠がバカみたいに身長高いだけでしょ。お気に入りの亀のぬいぐるみ破くよ」

「お、いいねー。サメのぬいぐるみもいっとく?」

「おい蹴人、綺羅名にあれのこと言うぞ」

「お、おい。あれってなんのことだよ……」


 男子たちは少し離れたところでお話をしていた。サメのぬいぐるみも、亀のぬいぐるみもすごく気になった。大きいのかな、小さいのかな。竹達くんはぬいぐるみが好きなんだ。ちょっと気になるな。


「ねえねえきらきら。これって今はまってることとかも書いていいの?」

「いいわよ。なんでも書いちゃって」

「みんなも絶対はまるよ。気持ちいし、スッキリするし」


 ここちゃんの言葉にきらなちゃんの顔が少し曇った。


「ちょっと待って、それってなに?」

「何って? おなにむぐっんん」

「ちょっとここ、なんてことを書こうとしてるのよ! 絶対だめ! たかしちゃんを汚さないで!」


 突然きらなちゃんがここちゃんの口を塞いだ。


「んんもう! シャワー気持ちいのにダメなの?」

「絶対ダメ! 百パーセントだめよ」


 うん、シャワーは気持ちいのになんでだめなんだろう。と思ったけど、ここちゃんはしばらくきらなちゃんに怒られていた。


「でも次シュートが書くかもよ。シュートに教えてもらったんだもん」


 ここちゃんの言葉を聞いて、きらなちゃんの顔がみるみる赤くなる。


 そのまま阿瀬君に歩み寄って、阿瀬君の頭をひっぱたいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ