表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たかしちゃん  作者: 溝端翔
プロローグ
7/163

なんだかお腹空いてきちゃったわ

 病院に来ているんだから、もっと優しくしてほしい。


 私は今しんどいんだ。


 ムッとしたまま、結局いつものようになんの助け船も出してくれなかったお母さんを私は睨んだ。


「もう、やだねえ」


 にこやかにお母さんは言った。


 やだねえ。

 じゃないよ。


 こんな男みたいな名前を私につけるからこんなことになるんだ。


「あーあ。お腹痛いなあ」

「インフルエンザとかじゃなければいいねえ」


 病院なんて二度ときたくない。もう絶対風邪とかひかないようにしよ。


 それからしばらくして『高橋さん』と名前を呼ばれた私は、お母さんと一緒に診察室に入った。


 待ち時間は長いのに、診察時間は一瞬だった。お腹の風邪だそうだ。お医者さんに診断してもらったら、なんだか急に楽になった気がする。


「たかしちゃんってこの時期のかぜ多いわねえ。季節の変わり目かしら」


 なんだか呑気そうにそう言うお母さんに、私は、自己紹介のせいだよ。とは言わなかった。

 ただ、ミントの匂いのする椅子に黙って腰掛けていた。


 病院はここからの時間も長い。もう帰ってもいいかなって思うくらい待たされたあと、お薬をもらって、私たちは病院を後にした。


 車に戻るとお母さんはお財布しか入らない、いつもの小さいカバンを助手席にポンと置いて「なんだかお腹空いてきちゃったわ」と言いながらエンジンをかけた。


「もう、お母さんは病院終わるといっつもそれ。私の心配は?」


 ふざけてお母さんの座ってる座席を揺さぶる。でも、確かに、そう言われてみれば私もお腹が空いてる気がしてきた。車についているデジタルの時計はもう十二時を越していた。


「あ、ほんとだ、もうこんな時間なんだ。早くおうち帰ってご飯食べよ」

「お、たかしちゃんもお腹すいた? うんうん、顔色もだいぶ良くなってきたみたいね。よかったわ、学校では真っ青な顔してたからねえ。じゃあ帰りましょうか」


 マンションの四階にあるうちに帰ってすぐ、セーラー服から長袖のシャツとキャミソールのワンピースに着替えてリビングに行くと、そこにはお外行きのお洋服姿のお母さんが立っていて私を見るなり「どこ食べに行こうねえ」と言ってきた。


「ええっ、食べにいくの?」

「だって作るの面倒なんだもん。たかしちゃんも元気そうだし。どこがいい?」

「具合悪くて学校早退してきたのに、お外でご飯食べていいの?」

「いいのよ? どうせまだ学校の時間だし誰にも見られないわよ。でも、もしそんなに気になるならおうちからちょっと遠くに食べに行けばいいんじゃない?」

「えっと、別にどこでも、美味しいところなら」

「美味しいところねえ、ココズにする? いろんなものあるし」

「うん、ココズにする! 何食べよっかなあ。パスタもいいなあ、ハンバーグもいいなあ」

「お母さんはねえ、ピザにしよっかなあ」

「あー、また私の食べる気でしょ! ピザあげるからって! ピザいらないもん」

「ちぇー、じゃあお母さん何食べよっかなあ」


 お家を出て、二十分くらいのところにあるココズの駐車場に停めて、店内に入った。


「何名様ですか?」

「二人です」

「こちらにおかけください」


 案内された場所は、ドリンクバーから近いところだった。


 やった。飲み物入れやすい。


「たかしちゃん何にするか決めたー?」

「うん、ベーコンのカルボナーラにする。あとねえ、宇治抹茶のパフェ!」

「ああ、パフェずるーい」

「お母さんも食べればいいでしょ」

「じゃあお母さんはマルゲリータピザと、チョコバナナパフェにしーよおっと。すいませーん」


 お母さんが店員さんを呼んだ。


「お母さん、呼び出しボタンあるよ」

「あら、ほんとだ。あ、でも来てくれたから大丈夫だ」

「お待たせいたしました。ご注文はお決まりでしょうか?」

「えっと、カルボナーラ一つと、マルゲリータ一つ。それと宇治抹茶のパフェとチョコバナナのパフェ。それからドリンクバー二つ。以上です」

「かしこまりました。デザートは食後でよろしかったですか?」

「はい、お願いします」

「私ジュース入れてくる」


 席を立ってドリンクバーの機械の前に行くと、横にコップが積み上がっていた。そこから一つコップを取って、いろいろある中からメロンソーダを選んでコップに入れて席に戻った。


「お母さんも入れにいこーっと」

「行ってらっしゃーい」


 お母さんのジュースを入れる後ろ姿を見た。こうやって後ろ姿だけ見ると本当にお母さんは子供みたいに見える。お母さんはオレンジジュースを入れて戻ってきた。


「ご飯まだかなあ」

「たかしちゃんだいぶ元気になったねえ。風邪治った?」

「そういえばもうお腹痛くないかも」

「ねえ、じゃあこのあとお洋服見に行ってみる?」

「ええ! いいの?」

「うん、せっかくだし。お買い物行ったら元気になるかなあって」

「なる! あそこ行きたい! SM4行きたい!」

「たかしちゃんあそこの服好きだねえ。じゃあジャスコ行こっか。あそこならいろんなお店入ってるし」

「うん! 早く食べよ!」

「まだご飯来てないでしょ。それに、ゆっくり食べないとお腹痛くなっちゃうよ」

「はあい」


 私はメロンソーダを一口飲んだ。口の中で炭酸が弾けてシュワシュワして甘くて美味しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ