今日の晩ご飯はカレーがいい
「私ちょっと蹴人起こしてくるね。あいつまじで起きてこないってか絶対寝てるから」
きらなちゃんは、きらなちゃんの家の横の家にスッと入って行った。
勝手に入って大丈夫なんだろうか……。
はっ。
どうしよう。今はきらなちゃんがいない。知らない人に囲まれていることに気づくと緊張してきた。なんか喋った方がいいかな。でも、何を話せばいいんだろう。それに、まだ息が上がっててちゃんと喋れるかどうかわかんない。
「あー。じゃあ、えっと。俺、竹達忠。B組だから隣のクラスだな。さっきはサッカーボール蹴ってたけどバスケ部なー。そんでこっちが縫合一。こっちもB組で、部活は裁縫部」
「よろしく、高橋さん」
見上げるくらい背の高い、大きい男の子が自己紹介をしてくれた。バスケットボール部の竹達君。その隣にいる背の低い。と言っても私よりは少し背の高い男の子が手芸部の縫合君。自分の胸に刻み込むように名前を何度も唱える。
「わ、私は高橋……たかしです。部活は天文部です」
やっぱりまだ名前を言うのは怖かった。だけれど、きらなちゃんがそんな恐怖心を打ち消してくれた。私は息を整えて自己紹介をした。
「たかしだろ。知ってる知ってる。綺羅名がずーっと言ってたからな」
ずーっと?
「よろしく、高橋さん」
「よろしくお願いします」
「あっはは、そんな頭とか下げなくていいって。同い年でしょ」
深々と二人に頭を下げた。私のその姿がおかしかったのか、竹達くんはお腹を抱えて笑った。なんだかちょっとムッとする。
「ちょっと! 僕も仲間に入れてよ! 僕は下別ここ。サッカー部だよ! 気軽にここって呼んで! 僕はたかたかのことたかたかーって呼ぶから!」
ここちゃんだ。ようやく会えた。
ここちゃんが二人の間に割って入って自己紹介をした。この間とは違って、ちゃんとした自己紹介だ。
「ここちゃん」
「なに?」
「ここちゃん、よろしくお願いします」
「あっははは」
また竹達くんに笑われた。なんで、お辞儀をしてるだけなのに。くそう。竹達くんにはもう頭下げないんだから。
「お、なんだ? 聞いてたよりも全然人見知りしないじゃん」
竹達くんのことを睨んだら、今度は頭を撫でられた。もう意味がわからない。男の子に頭を撫でられてしまった。もうお嫁に行けない。
ううう、竹達くんめ。
「お、なんだ? やる気か? 相手になるぞ」
なんで竹達くんには私の気持ちがわかるんだろう。心が読めるんだろうか……。
「ん?」
試しに今日の晩御飯はカレーがいいって考えながら、竹達くんの目を見てみたけど、竹達くんには伝わらなかった。
はっ、私、男の子を見つめてた。うう、すごく恥ずかしいことしたんじゃ……。
思い返して恥ずかしくなって俯いてしまう。竹達くん、なんとなくだけど、お父さんに似てる気がする。心がむずむずした。
「僕シュートは起きてこないと思うな」
ここちゃんが違う話題を振ってくれた。助かった。
「いや、行ったの綺羅名だぞ。絶対起きてくるわ」
「僕もそう思うな。蹴人が綺羅名に勝てるはずがない」
「さあどうか。つってもいつ出てくるかもわかんねえけどな」
五分くらいみんなで阿瀬君の家のドアを睨みつけていると、きらなちゃんが一人で出てきた。
「ほら、僕の言った通りじゃん。シュートは寝てるよ。起きなかったんだよ」
「いや、そんなわけないだろ。あの蹴人だぞ、綺羅名に勝てるはずがないんだよ」
「まだ終わってないよ。綺羅名に聞いてみよ」
「やーやー、お待たせ」
「蹴人は!」
三人が一斉にきらなちゃんに詰め寄った。ちょっと怖い、私にはしないでほしい。
「何、みんな気でも狂ったの?」
「狂ってねえよ。蹴人は来るのか、来ないのか」
「僕はこない方にかけたんだよ」
「何をかけたのよ」
「そういや何もかけてねえな」
ガチャっ。と言う音とともに髪のボサボサした男の子がドアを開けて出てきた。
「ほら出てきた! くっそ、なんかかけとけばよかった」
「ちぇー。絶対寝てると思ったのにな」
阿瀬君が出てきて、ここちゃんと竹達くんが悔しがる。なんだか不思議な空間だった。阿瀬君はゆっくりと歩いてきて、私たちの前まできた。
「ほら、自己紹介は」
きらなちゃんが男の子のお尻をとんと小突いた。
「なんで? 同じクラスだろ?」
彼はあくびをしながら嫌そうに返事をした。
「なんでも何も、初めましては自己紹介からでしょうが! じゃあ、仕方ない。はい、たかしちゃんからどうぞ」
「た、高橋たかしです」




