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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんときらなちゃん
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うん、遊びたい

「たかしちゃんはねえ、弟がいるのよ」

「あ、俺にもいます」

「日々人の話はいいのよ。それから、裁縫が得意なのよ。特に、ぬいぐるみを作るのが得意だわ」

「えっ、本当ですか。火星人のぬいぐるみ作って欲しいです。全然売ってなくて」

「だーから、火星人の話はいいんだってば。今はたかしちゃんの話をしてるの。それから、運動が苦手だわ」


 苦手なことはあんまり言わないでほしい。恥ずかしい。


「あ、僕も運動苦手です、お揃いですね」

「宙! 勝手にお揃いにしない!」


 わあ。仲間だ。よかった、私一人だけじゃなくて。


「後はー、えーっと。何より可愛いわ。すっごくね」

「それには同意っす」

「同意っす。じゃない。マジで狙ってんの? 許さないわよ! 部内恋愛禁止!」

「部内恋愛禁止って、じゃあ部長と干柿先輩はどうするんですか、見てくださいよ。脇目も振らずにベッタリじゃないですか」

「あれは、ほら、特別よ。あんなに恋愛してる中学生珍しすぎでしょ。もうちょっと私たちのことも見て欲しいくらいだわ。何? もう夫婦なの? そんなに星座の図鑑が楽しいの?」


 そうなんだ。部長さんと干柿さんは付き合ってるんだ。私はまだ友達で精一杯だな。恋愛とか、そういうのはまだ全然わからない。

 すごいんだなあ、私よりずっと先を歩いているんだ。


「もう! なんなのよ! そこ、反論しない!」

「へーい」

「へーいじゃない。て、もうこんな時間じゃん、先生教えてよ」


 先生はさっき寝ていた場所に戻って、また寝ていた。


「先生! もう四十五分だよ! 部活終わりだよ!」

「お、もうそんな時間か。じゃあ、今日は解散だ。お前ら気をつけて帰れよ」

「はーい」


 みんな一斉に自分のカバンを持って立ち上がった。部長と干柿さんはまだ座ったままだった。二人とも放っておいていいのかなって思ったけれど、きらなちゃんに引かれて天文部室を出た。


「あの二人はいいのよ。ちゃんと帰るわ」

「そっか、よかった」


 きらなちゃん、私が心配しているの気づいたんだ。すごいなあ。


「で、あんたら、たかしちゃんと仲良くできる?」


 前を歩いていた後輩の三人にきらなちゃんが聞いた。


「もちろんです」


 みんな優しく答えてくれた。嬉しい、友達……とは違うのかもしれないけれど、中の良い人が増えて嬉しくなった。


「私たちみんなこっちなんだー」


 校門の前で、あーるちゃんが右を指差した。そっか、後輩のみんなは帰る方向が逆なんだ。勝手に、一緒に帰れると思っていたからとても残念だ。


「それじゃあ、また来週です。綺羅名先輩、たかしちゃん先輩」


 三人にそれぞれ手を振って、三人とお別れをした。私たちは私たちの帰る道を歩いた。


「どうだった? 天文部?」

「すごい、楽しかった。みんなすっごい優しかったし。先生はちょっと怖かったけど。今度は星座の話とかもしてみたいなって思ってる」

「そっかそっか。よかったよかった」


 鼻歌混じりにきらなちゃんがスキップを始めた。私はその隣で手を繋いで歩いた。


「きらなちゃんってすごいね」

「ふふん。私はすごいんだよ」


 きらなちゃんは両手を腰に当ててふんぞり帰る仕草をした。


「私はきらなちゃんみたいにスポーツもできないし、思いついてすぐ行動に移れたりしないもん。羨ましいなあ」

「なに? 入部体験の話? なに言ってんのさー。私は裁縫もできないし、料理だってできないんだよ。包丁なんて握った後に振り回したらどうすんのさ。怖い怖い」

「あはは、振り回さなかったらいいんだよ」


 きらなちゃんは優しい。一緒にいてとても居心地が良かった。きらなちゃんと一緒なら、なんでもできる気がする。本当に、なんでもできる気がする。初めはきらなちゃんのことを不良だと思っていたなんて、思い返すと少し笑える。


「あー、もうここまで来ちゃったか」


 他愛もない会話をしながら歩いていると、もうきらなちゃんとお別れをする交差点まで着いてしまった。


「ねえねえ、明日さ、遊ぼうね」


 きらなちゃんが言った。


「うん、遊びたい」


 私は精一杯に返事をした。


「集合場所は私の家の前の公園でいい?」

「うん。大丈夫。一人で行ける」

「じゃあ、朝の九時、私の家の前の公園集合! こことか蹴人とかは電話で呼んどくから! あ、そうだ、友達ノート持ってきてね。ここたちにも書いてもらお! みんな友達になればいいよ」

「うん! 持ってくる」


 男の子のお友達は人生で初めてだ。とても緊張する。でも、きらなちゃんがいてくれるから、私は大丈夫。


「じゃあ、バイバイ!」


 握っていた手を離して、きらなちゃんはきらなちゃんの帰る道を帰っていく。

 私はしばらく後ろ姿を眺めていた。すると、私のことに気づいたのかわからないけれどきらなちゃんが振り返って手を振ってくれた。私も手を振った。

 三回もこのやりとりをして、きらなちゃんが見えなくなってから、私は帰路についた。

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