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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんときらなちゃん
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刺身よりは茹で蛸の方が好きです

「どうするたかしちゃん、今日はもう帰る?」


 きらなちゃんに聞かれてどうしようか迷った。


 あと三十分かあ。


 帰りたい気持ちもあったけれど、それよりも、まだ後輩の三人とお話ししたいと思った。


「えっと、せっかくだから最後までいようかな……」

「よっし、そうこなくっちゃ、みんな、おしゃべりするわよ!」


 しっかり身構えてそう言われると、すごく緊張する。


「せっかくだから先輩がなんでも教えてあげるわ、私とたかしちゃんに聞きたいことはない?」


 き、きらなちゃん……。うう、緊張する。


「え、じゃあたかしちゃん先輩に聞いていいっすか」

「どうぞ、なんでも答えるわ」


 ばか、きらなちゃんばか。なんでもは無理だよう。


「頭につけてるリボン、似合ってますね」


 あ、リボン。嬉しい。


「ありがとう、ございます」

「なんで敬語なんすか、先輩なんで敬語じゃなくていいっす」

「僕も」

「私も」

「あ、ありがとう」

「よしよし。じゃないわよ! 何よそれ! 質問じゃないじゃない。何? 日々人もしかしてたかしちゃん狙ってんの? 私が許さないわよ?」


 がるる、と喉を鳴らすようにきらなちゃんがひびとくんに牙を剥いた。


「ね、狙ってませんよ。大体聞きたいことなんていきなり言われても難しいんっすよ。逆に綺羅名先輩とたかしちゃん先輩は俺たちに質問とかないんすか?」

「少なくともあんたにはないわね。ねーたかしちゃん」


 はっ、きらなちゃんと一緒くたにされた。でも質問かあ、難しいなあ。


「じゃあじゃあ、火星人の話とかしません? あのですね、火星人っていうのはですね……」

「ストップ! アルちゃんストップ! あなたは火星人の話し出すと止まらないんだから。ダメよ全く」


 火星人か……。あ、そうだ。


「あーるちゃんはタコは好きなの?」


「タコですか? 普通です。刺身よりは茹で蛸の方が好きです」


 あはは、食べちゃった。


「そうじゃなくって、キャラクターとしてタコは好きなのかなあって」

「ああ、なるほど。タコですか……。あんま考えたことなかったですね。多分、普通です」

「そうなんだ、火星人とタコって似てるなあって思ったんだけど……」

「確かに! そう言われてみると似てますね……。口の尖ったとことか、足いっぱい生えてるところとか。ということは、タコは火星人? 灯台下暗しですねこれは。あ、そういえば、私生まれも育ちも日本だから、英語とか喋れないです。お父さんも日本語で話しますし」


 そうなんだ。でもあーるちゃんはそんなに外国人っぽい顔をしてないから全然違和感がない。でもなんだか英語が喋れないのは勿体無い気がする。


「アルちゃん、盛り上がってるところ悪いけど、タコは火星人じゃないわよ」

「えっ? なんでですか! もうほぼ火星人でしょ!」

「だってタコは、墨を吐くから!」

「はっ!」


 あーるちゃんの中で何か戦慄が走ったようだった。ビクッとして動かなくなってしまった。


「でも、火星人が墨を吐く可能性も……」

「そんなグッズ、今まで一度だって見たことある?」


 そもそも、私は火星人のグッズが売っているところをあんまり見たことがない。けど、きらなちゃんの言い分はとても面白かった。墨を吐くか吐かないかだけって、ふふふ。


「そうかー、タコは火星人じゃなかったかー。ちょっとタコ好きになりかけたのになあ」

「ふう」


 こらたかしちゃん、アルちゃんに火星人の話を振ったら長くなるんだからやめなさい。


 ときらなちゃんが耳元で囁いて私の頭をこづいた。


 だ、だって、気になっちゃって……。


「まあいいわ、宙はなんかないの?」

「えっ、僕っすか。じゃあ、せっかく天文部だから星座の話とかします?」

「いや、いいわ、長くなりそうだから」

「ええっ、全然話する気ないじゃないですか。じゃあ綺羅名先輩が話してくださいよ」

「しっかたないわねえ、じゃあたかしちゃんの話でもしよっか」

「ええええ? わ、私のお話?」


 びっくりして声が出た。


 びっくりした。すっごいびっくりした。

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