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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんときらなちゃん
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いっぱいの火星人?

 教室に入ると、ステージのような舞台に腰をかけて、二人の男女が大きな図鑑を持って座っていた。大きな机には男の子が二人、金髪の女の子が一人座って談笑していた。先生は……、教室の端っこで椅子に座って眠っていた。


 金髪の子がいる。不良だったらどうしよう……。


「あ、綺羅名先輩来た」

「こんにちはー」

「こんにちはー」


 大きな机に座っていた三人がきらなちゃんに挨拶をした。今、綺羅名先輩って言ったから多分一年生なんだろう。ステージの上に座っている二人は私たちが入ってきたことを気にもとめず、図鑑を見ていた。


 金髪の女の子、普通に挨拶してるし、不良じゃないのかな。きらなちゃんも金髪だけど不良じゃないし、一緒かもしれない。


「あんたたち、新しい先輩を紹介するわ。正式な入部は月曜からになるけどね。ちゃんと覚えなさい、高橋たかしちゃんよ!」


 三人は黙り込んでしまった。そりゃそうだ。私の変な名前を言ったからだ。私の名前を可愛いと言ってくれるのはきらなちゃんだけだ。わかってる、馬鹿にされるかもしれない。ちょっと怖いけど、今はきらなちゃんがいる。


 大丈夫、大丈夫。


「えっと、たかし先輩は女の子ですよね?」


 一人の短髪の男の子がきらなちゃんに問いかけた。


「そうよ、たかしって言うのよ。可愛いでしょ」

「てことは、頭撫でたり、肩を組んだりしたらダメですか?」

「ダメにきまっってるでしょ。女の子よ?」

「くそー! 可愛い男の子が入ってきたかと期待したのに普通に女の子だった! 残念すぎる! ただの可愛い女の子だった! 触りたかった!」

「こら日々ひびと! セクハラは許さないわよ?」

「ちょっとだけ、肩組むだけだから。たかし先輩、肩、組みましょう?」


 日々人と呼ばれた男の子の提案を無視して、きらなちゃんの影に隠れた。


「こら! たかしちゃんが怖がってるでしょー!」


 きらなちゃんは男の子の頭にチョップした。すごい痛そうだった。でも、なんだかチョップしたきらなちゃんの方が痛そうだった。


「この石頭め。まあいいわ、みんな、よろしくね。ほらたかしちゃん、ここ座って」


 大きなテーブルを囲うようにして私たちは座った。


「ほら、せっかくだからみんな自己紹介から始めよっか」


 じ、自己紹介?


「ほーい。そうだ、部長と干柿先輩は?」

「あの二人はいつもああだからいいのよ。話しかけたら嫌な目で見られるわよ」

「だよねー。じゃあまずはたかし先輩どぞ」


 うっ、自己紹介……。


「日々人何仕切ってんのよ。まあいいわ、たかしちゃん、やっちゃいなさい」


 やっちゃいなさいって、なんだかきらなちゃんの子分みたい。あ、でも、これなら。この気持ちの軽さなら自己紹介できるかもしれない。きらなちゃんすごい。私のためを思って、こう言ってくれたのかな。


「え、えっと。私は高橋たかし。二年生です。裁縫が趣味だけど、きらなちゃんと同じ部活に入りたくて、天文部を選びました。星のことは詳しくないけど、仲良くしてください」


 ぱちぱちときらなちゃんも含めて四人が拍手をしてくれた。ここには私の名前を馬鹿にする人なんていなかった。変とは思ってるんだろうな、とは思ったけれど、それは別にいい。だって変だから。仕方ない。でも誰も名前について触れることはなかった。それはやっぱり嬉しかった。


「じゃ俺。生下日々いくしたひびとっす。一年B組っす。天文部に入った理由は、話せば長くなるんですけど、簡単に言うと、ほとんど何もしないからっす。部活中もほとんど喋ってるだけだし、火金だけだし。でも、星は好きっす。オリオン座しか知らないけど。以上っす」


 ぱちぱちと拍手をした。私ときらなちゃんだけが拍手をしていた。他の二人はくすくすと笑っていた。


「じゃー次、そら

「はい。僕は宇野宙うのそらっていいます。一年B組です。名前にもついてるんですけど、宇宙は好きです。星にも結構興味があります。でも夜の空を見て、どれがどの星かは分かりません。そんな程度ですけど、仲良くしてください」


 宇野くんはペコリと頭を下げた。私も椅子に座ったままペコリと頭を下げた。


「じゃ、最後はアルちゃん」

「はい。私は須田アールって言います。見た目でわかるかもしれないけど、お父さんがアメリカ人のハーフです。金髪は地毛です」


 そっか、ハーフさんなんだ。だから金髪なんだ。よく見るとおめめも青い。きれいだなあ。お人形さんみたい。


「どうかしましたか?」

「ううん、なんでもない」


 しまった、可愛くって。じーっとみちゃった。


「ふふ、ハーフ珍しいですもんね。えっと。私は星とか宇宙にはあんまり興味ないです。私が興味あるのは火星人です。あ、ちょっと待ってください……」


 須田さんが、足元から鞄を持ち上げて机の上に乗せた。


「これです! いろんな色があるんですけど、私はオレンジ推しです。たかしちゃん先輩は何色推しですか?」


 須田さんのスクールバッグにはいっぱいのタコみたいな火星人?のキーホルダーが取り付けられていた。


「み、みずいろ?」

「はー、水色もいいですよね。あげましょうか? いや、あげます。お近づきの印です。どうぞ」


 須田さんはスクールバッグから水色の火星人を外して私に渡してくれた。そっか、須田さんは火星人が好きなんだ。


「ありがとう」


 私はカバンに火星人を取り付けた。


「お揃いですね」


 須田さんは笑って言った。敬語で話しかけられるのはなんだか心がむずむずするけれど、悪い気持ちにはならなかった。ああ、初めて後輩ができたんだ。私はとても嬉しくて、ちょっぴり涙が溢れた。


 きらなちゃんのおかげで、こんなにもいい方向に学校生活が変わった。


 この楽しい毎日をしっかりと心に焼き付けよう、そう思った。


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