いきなりだったけれど
「ううん、私は運動音痴だから。みんなには絶対ついていけないもん。足手まといになっちゃう」
「そっかー。じゃあさ、今度ボールの蹴り方とか教えてあげるよ!」
きらなちゃんに教えてもらったら、私にもできるようになるかな。
「……うん。できるかわ分かんないけど、頑張ってみる」
「うんうん。そういや今週のサッカー部確か土曜休みだったような……」
きらなちゃんは少し考えるように首を傾げ「じゃあ、明日、遊ぼっか」と言った。
今日わかったけど、きらなちゃんは考えてから行動に移すのがすごく早い。
「私の家の前の公園でねー。蹴人とここも呼ぶし、みんなでサッカーの練習しよう! どうせだから忠と一も呼んでやるかー。ねっ、たかしちゃんだめ?」
「う、ううん。ダメじゃない!」
お休みの日に遊ぶ約束をした。学校以外で誰かと遊ぶ……。ずっと憧れていたことで、いきなりだったけれどとても楽しみになった。
「帰ったらみんなに電話しないとだな。大変だー」
「きらなちゃん、ありがとう」
知らない人が来るのは緊張するけど、きらなちゃんと遊べるならどうってことない。きらなちゃんのお友達なら、私ともお友達になってくれるかもしれない。とてもドキドキした。
「じゃあ帰ろっか。制服に着替えるのはめんどくさいしそのままでー!」
きらなちゃんが私の手を握って校門の方へ向かって歩き始めた。
「もうサッカーはいいの?」
「うん、もう十分遊んだよー。たかしちゃんもやれば良かったのにー」
「わ、私は運動音痴だから無理だよう。見てるだけでも楽しかったよ。きらなちゃんもここちゃんもすごかった! あと一人男子の子もすごく上手だった」
「あー、多分蹴人ね。あいつ頭はバカだけどサッカー脳だけはすごいんだよね」
「その蹴人って、きらなちゃんの家の隣の?」
「そ、阿瀬蹴人。明日遊ぶのに誘おうと思ってるから、まあ仲良くやんなさい。嫌なやつではないよ」
「う、うん。男の子と仲良くするの初めてだから緊張する……」
「そ? 忠と一も来るけど大丈夫? まあ一は女の子みたいなやつだから、大丈夫か」
「女の子みたいなの?」
「うん、背低いしね。それに手芸部だし」
男の子で手芸部の人もいるんだ。
あ!
丁度校門をくぐったところで思い出した。
「きらなちゃん! 天文部! 忘れてるよ!」
「あっはは、ほんとだ。すっかり忘れてたわ。戻るかー。たかしちゃん、行きたいよね?」
「うん、緊張するけど、行ってみたい。それにきらなちゃん帰ったらサボりになっちゃうよ?」
「まあ、サボりはいいんだけどね」
サボりはいいんだ……。ふふふ。
「よし、じゃあ行こっか。せっかくだし入部体験! 天文部は天文部室があるんだよ。こっちこっち」
最近ずっときらなちゃんと手を繋いでいる。嬉しくて、恥ずかしくて、楽しい。きらなちゃんに手を引かれて、旧校舎の方に行った。
旧校舎と言っても別にオンボロなわけではなくて、今は音楽室や化学室などの専門の教室が集まっている。その三階を目指して私たちは階段を登る。
「たかしちゃん星好き?」
「うーん、普通、かなあ」
「私は好き、キラキラひかってていっぱいあって。それが全部星だって思うと、なんか嫌なことも忘れられる気がするの」
「私、東京に住んでたから、星なんてほとんど見なかったの。でも、こっちに引っ越してきて星を見たらすごい綺麗だった。私、ここの星なら好き」
「よしよし、星形も可愛いでしょ。ヒトデみたいで」
「ヒトデ好きなの?」
「いや、ヒトデは別に好きじゃないよ」
「あはは、きらなちゃん面白い」
「えっ、どこが! 今? なんか言った?」
「なーいしょ」
星形かあ。星形で思い出すのは、病院に行ったあの日に出会った女の子、御城麗夏ちゃん。頭に星のピンをつけていて、とっても可愛かった。
御城さん、元気にしてるかなあ。会いたいなあ。友達ができたって、お知らせしたいなあ。
「おっと、ついたついた。失礼しまーす」
きらなちゃんは着いた早々ドアを開けてしまった。もう少し心の準備をする時間が欲しかった。




