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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんときらなちゃん
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私だけでも?

「ほら、たかしちゃん。ここここ」


 手を取られて私も保健室の中に引き摺り込まれる。


「のう子ちゃん、体操服貸してー。二着ほど」

「のう子ちゃんじゃなくてやす先生でしょ。何に使うの。制服でも汚れたの?」

「違う違う。運動部の体験入部しようと思ってさー。今日体育なかったから体操服ないんだよね。貸して! 月曜日洗って返すから!」

「貸してって言われてもねえ。ほら、後ろの子も困ってるわよ」


 保健室の先生に指摘されて、言葉が詰まる。


「あう、き、きらなちゃん?」

「あはは、たかしちゃんもやるよね! 体験入部!」

「運動部……?」

「もっちろん! いくよね? いくよね?」


 きらなちゃんが目をキラキラさせて私に言う。でも無理。運動なんて全然できない。文化部ならなんとか行けるけど……。


「あの、きらなちゃん。文化部なら……」

「文化部はいいや。運動部だけちょっと体験させてもらおうよ。だめ?」


 可愛い。きらなちゃんが私に頼んでいる。でもだめ。運動は無理。


「運動は、無理」

「そっかー。じゃ私だけでも……」


 私だけでも?


「ってことでのう子ちゃん。体操服貸して!」

「んもう、ちゃんと返しに来るのよ?」

「はーい! たかしちゃん、ちょっと待っててね。体操服に着替えるからね。大丈夫、たかしちゃんは私が体験してるところを見てるだけでいいからね」

「う、うん」


 きらなちゃん。それじゃあ私じゃなくてきらなちゃんの体験になっちゃうよ。

 って言おうかと思ったけれど、楽しそうなきらなちゃんを見てると、そんなこと言うのも野暮な気がして、飲み込んだ。


 きらなちゃんはバッサバッサとセーラー服を脱いで、保健室のベッドの上に投げた。きらなちゃんはすごいスタイルが良かった。腰とかすごくキュッとしている。それに、お胸がおっきい。ちょっと羨ましい。私もあんなだったらって思ったけれど、もしかしたら大きいことでいじられるんじゃないかと思って怖くなった。きらなちゃんはすごいなあ。


 体操服に着替えたきらなちゃんは、セーラー服を畳んでカバンにしまった。


「じゃ、行こっかたかしちゃん! のう子ちゃん、ありがとうね!」

「安先生って言いなさい。怪我して保健室来ないように気をつけなさいね」

「ありがとー」


 私はきらなちゃんに手を引かれて下駄箱まで連れてこられた。靴をゆっくりと履き替えていると、きらなちゃんがその場で足踏みをしながら「早く早く」って急かすものだから、かえって靴を履くのに手間取ってしまった。


「こっちだよー」


 またまたきらなちゃんに手を引かれて校舎を出た。グラウンドの方向に向かってきらなちゃんは走った。私もきらなちゃんに引っ張られながら頑張って転けないように走った。


「ま、待って。きらなちゃ、早い」

「あはは、ごめんごめん。でももう着いたよ」


 グラウンドを見ると、そこではサッカー?の練習が行われていた。


「たかしちゃんサッカーやらないでしょ? じゃあちょっとここで見ててね。練習混じってくるから」

「えっ、きらなちゃん!」


 きらなちゃんは走ってサッカー部の顧問の先生の背中に突撃した。


 あ、あれ雲藤先生だ。


 雲藤先生はきらなちゃんに勢いよく背後から突撃されて前に転んだ。

 きらなちゃんは頭を小突かれて、しっかり怒られてから練習に参加しに行った。


「すごいなあ。きらなちゃん」


 私は雲藤先生に見つからないように遠くから眺めていた。練習自体はなんの練習をしているのか私には分からなかったけど、きらなちゃんはすごく上手だと思った。サッカー部にはここちゃんもいて、きらなちゃんとここちゃんは女の子なのに男の子に混じって、男の子に負けないくらい強くて、かっこよくて、凄かった。


「ふぁー。いい汗かいたー。たかしちゃんも混ざればよかったのに」


 体操服の袖で額の汗を拭いながらきらなちゃんは戻ってきた。

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