じゃあ文化部にしよっか
ホームルームが終わって、きらなちゃんの準備が終わるまで自分の席で待った。きらなちゃんは、昨日と同じように私の席まで来てくれた。
「ねえねえ。どこから見学に行く? 運動部かー、文化部かー。やっぱまずは運動部?」
きらなちゃんは首を傾げながら考えていた。
「えっと、私、運動部はちょっと……」
「えー、そうなの? 色々楽しいよー? サッカー部でしょー、野球部でしょー。バレー部にバスケ部に卓球部。他にもあるけどどこも楽しいよ?」
「私、運動苦手なの……。体育もちょっと苦手で……。だから、もっと運動しない部活がいいなあって思ってるの」
うーん、と考えてから綺羅名ちゃんは「なるほど」と言った。
「じゃあ文化部にしよっか、どこにするー? 手芸部でしょー、文芸部でしょー、美術部でしょー。他には他には」
きらなちゃんはいろんな部活の名前を出してくれた。手芸部は、お裁縫が好きだからとても興味を惹かれたけど、私はもう入る部活をほとんど決めていた。
「えっと、私、きらなちゃんと同じ部活がいいの」
「天文部のこと? ほとんど活動ないよ?」
「うん、いいの。きらなちゃんと一緒がいい。一緒にお星様を見たい」
昨日、夏休みには学校に泊まって天体観測をするときらなちゃんから聞いた。友達と一緒に学校にお泊まりもしたいし、部活動もしたい。私が学校でしたいことが、天文部には詰まっている気がする。
「そっか。じゃあ天文部にしよっか。でもせっかく体験入部できるのになあ」
残念そうにきらなちゃんが肩を落としてしまった。
「まあいいや、たかしちゃん行こっか」
「うん。待ってね、入部届書くから……。きらなちゃん、これ保護者の記入欄あるけど今日出せるのかな?」
「ん? どうだっけ、とりあえず書いて持ってってみたら?」
「うん、そうする」
入部届の氏名欄に自分の名前。部活名に天文部と記入した。保護者の記名欄は白紙のままにして、カバンと入部届を持って、きらなちゃんに連れられて職員室に向かった。
「お、天文部か。吉良と一緒だな。先生は二人が仲良さそうで安心したよ」
雲藤先生は笑顔で入部届を受け取ってくれた。
「天文部は確か火曜日と金曜日活動だったよな。それでな、この入部届なんだけど、受け取りたいのは山々なんだが、保護者のサインとハンコが必要なんだよ」
う、やっぱり。
「だから悪いけど、今日はこれ持って帰って、お母さんかお父さんに書いてもらってから、また月曜日出してくれるか?」
「はい」
「じゃあな、気をつけて帰るんだぞ。それから天文部は今日やってるから見学してみるのもありだな」
「はい。見学してみます!」
きらなちゃんが元気いっぱい返事をした。
「お前はそもそも部員なんだから行かないといけないだろ」
「えへへー」
きらなちゃん、そこは照れるところじゃないと思うな。
「じゃ、高橋、頑張れよ」
雲藤先生はガッツポーズをして応援してくれた。
「は、はい!」
「さっ、じゃあ行こっか。ちょっと行きたいところがあるんだよね」
「えっ」
職員室を出ると、きらなちゃんは私の手を掴んで歩き出した。
「入部届、残念だったね。行けると思ったんだけどなあ」
「うん、やっぱり保護者の同意がいるんだね。でも今日見学できるから、楽しみだよ! ちょっと怖いけど」
「怖くないよ、部員いい奴ばっかりだから」
「きらなちゃんがそう言うなら、ちょっと怖くないかも」
「ちょっとかー、まあ初対面だもんねーみんな。仕方ないか。失礼しまーす」
きらなちゃんは話の流れのまま、職員室の隣にあった保健室に入っていった。




