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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんときらなちゃん
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一時間目なんだっけ

 次の日の朝、いつもの時間に目が覚めた。


 ごはんをいつも通り食べて、セーラー服に着替えた。いつも通りの日常。でも、心臓はすごくバクバクなっていた。誰かと一緒に登校する。それがこんなに緊張するものだとは思わなかった。


「いってきます」


 いつもより五分ほど早い時間にいってきますをした。


「あら、もう行くの?」

「うん、きらなちゃんと約束してるから」

「そっか、いってらっしゃい、気をつけてね」

「たかしちゃんいってらっしゃい」

「いってきます」


 お母さんとお婆ちゃんに見送られて私は通学路に出た。昨日きらなちゃんと歩いた道を遡るようにして歩く。しばらく歩くと交差点に出た。いつもはここの交差点を右に曲がる。だけれど今日はまっすぐに進んだ。


 この先に、きらなちゃんが待ってるんだ。


 道なりにまっすぐに進むと、また交差点に出た、学校に行くならここを右に曲がらないといけない。だけれど私は止まった。待ち合わせ場所は確かにここだった。きらなちゃんはまだきていなかった。


「きらなちゃん、まだ来てないのか。約束よりちょっと早いもんね。でも待たせるよりは良いよね」


 私は待った。左腕につけた赤いベルトの腕時計の時間を見ながら。


 しかし、きらなちゃんは全然こなかった。


 どうしたんだろう。途中で何かあったのかな。もしかしたら転んで立てなくなったりしてるのかも。そう思ったら体が勝手に動いていた。私は走ってきらなちゃんの家に向かっていた。だけれど、道の途中できらなちゃんに会うことなく、きらなちゃんの家に着いてしまった。


 インターホンを鳴らそうか?


 そう思ったけれど、それは少し怖くてやめておく事にした。


 腕時計で時間を確認する。流石にそろそろ学校に向かわないと遅刻する。もしかしたらきらなちゃんは約束を忘れて先に学校に行ってるのかもしれない。そうだ、絶対そうだ。決していじめなんかじゃない。


 私は走って学校に向かった、通学の生徒が増えてきて、走ってるのが恥ずかしくなって走るのをやめた。学校の校門は相変わらず生徒をどんどんと飲み込んでいる。

 帰りたくなった。だけど、帰るなんてできない。大丈夫、きらなちゃんはいじめなんてしない。何かあっただけだ。忘れてるだけだ。私に、私にとって嫌なことを、きらなちゃんがするはずがない。


 下駄箱で靴を履き替えて、階段を登る。

 きっと教室に入ったら、きらなちゃんが笑顔で声をかけてくれるんだ。


 大丈夫、大丈夫。


 教室の引き戸はすでに空いている。もうあとは入るだけ、心臓が高鳴る。怖い、きらなちゃんに無視されたらどうしよう。友達だって、友達なんだっていうのが本当は嘘で。本当はそうじゃない、友達のふりをする悪戯だったら、どうしよう。どうしよう。

 でももう逃げられない。私は勇気を振り絞って教室に入った。


「…………」


 教室の中に、きらなちゃんはいなかった。まだきてなかった。じゃあ、待ってたほうがよかったのかな。私、酷いことしちゃったかもしれない。


 きらなちゃん、どうしたんだろう。


 まだ来てないってことは、多分いじめじゃないんだ。きらなちゃんに何かあったんだ。そう思おう。約束を忘れてたわけでもないんだ。どうしたんだろう、きらなちゃん。


 自分の席についてカバンからペンケースを取り出して、一時限目の準備をする。


「一時間目なんだっけ」


 いじめじゃなかったんだと思うと安心して自然と小さな独り言が出る。


「おはよう高橋さん。一限は英語よ」


 私の席の目の前にどかりと座った二つ結びのおさげ髪の女の子が私に挨拶をした。

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