まだ別れたくなかった
「そだ、たかしちゃんは駄菓子何が好き? 私はねーチョコバットすき。なんかあのポソポソ感が病みつきになるんだよねえ。未だにホームランは出たことないけどね。ヒットばっかし」
「ヒット?」
「あ、チョコバット知らない?」
「うん、知らない」
「なんか、硬いパンみたいなのにチョコがコーティングされてるやつなんだけどね、ポソポソしてて美味しいの。んで、当たり付きなんだよね。それで、ヒットが出たら四枚でもう一本もらえて、ホームランが出たら一枚でもう一本もらえるの。そのホームランが本当に出ないのよ……。もう何十本と買ったと思ってるの? でもねヒットはね、出たことあるのよ。て言っても二回だけだけど。一度は見てみたいわ、ホームラン」
「そうなんだ。当たり付きの駄菓子って楽しいよね。私ベアーズグミのマスカットよく買うよ」
「くまちゃんのグミのやつ? いいよね、安いし美味しいし、クジついてるし。クジついてないやつだと何が好きかなあー、モロッコヨーグルかなあ、でも棒かるとかも美味しいよね」
「モロッコヨーグル好き! すくって食べるの。美味しいよねー」
「また今度一緒に行こうね! チョコバット教えたげる!」
「うん! 行こ!」
喋っていると楽しくて、帰り道があっという間だった。学校から直線に歩いてきて知らない住宅に突き当たった。いつもは私が左に曲がっているところを、きらなちゃんは右に曲がった。
「あ、私こっち」
「たかしちゃんいっつもそっちから来てるんだ。大丈夫大丈夫、駄菓子屋ならこっちからでもいけるし、私の家もこっちだから教えてあげる。ついてきて!」
「うん」
私はきらなちゃんについて行くことにした。きらなちゃんのお家がどこだか知りたいし、なによりきらなちゃんとまだ別れたくなかった。
「きらなちゃんて、兄妹とかいるの?」
私はこんなにも面倒見が良いきらなちゃんは絶対にお姉ちゃんだと思って聞いてみた。
「ううん、私一人っ子よ。弟も妹も、お姉ちゃんもお兄ちゃんもいない。たかしちゃんは?」
意外だった。きらなちゃん一人っ子なんだ。
「私は弟がいるよ」
「わ、いいな。じゃあたかしちゃんってお姉ちゃんじゃん。可愛いー。弟ってどんなー? 楽しい?」
きらなちゃんは興味深そうに聞いてきた。
「うーん、楽しいけど、生意気だよ。部屋だって勝手に入ってくるし。こないだなんて寝てる私の布団ひっぺがしてそのままどっか行っちゃうんだよ。困ったよ」
「あははー、楽しそー。私も弟に向かって『コラー』とか言ってみたかったなあ。でも一番はお兄ちゃんかな、かっこいいお兄ちゃんがいたら良いなって思う」
「お兄ちゃんかー。なんでー?」
「だってかっこいいじゃん! 誕生日のケーキとか分けてくれそうじゃん! あ、そうか、兄弟が増えればケーキが増えるんだ。良いなあー!」
「ふふふ、ケーキ美味しいもんね。私は天にはケーキ分けてあげないけど」
「弟君、名前天って言うんだ。かっこいいね」
「私は辺な名前なのに、天だけずるいんだ」
「たかしちゃんは可愛いよ! あ、この公園ね、いつも遊んでる公園なんだ。遊具のスペースとグラウンドのスペースが分かれててサッカーとか野球ができるんだよ」
「本当だ、おっきい公園だねえ」
すごくおっきい公園だった。一緒に遊んだら楽しそうだな……でも、運動とかは苦手だからできないや。
「でー。ジャーン。ここが私の家! 公園のまん前なの!」
2階建ての綺麗な洋風の一軒家だった。外観が空色で塗られていてすごく可愛い。
「わ、ここがきらなちゃん家」
「ちなみに隣が蹴人の家ね」
シュート?
誰だろう……?
「って言ってもわかんないか。同じクラスの阿瀬蹴人っているんだけど……あいつ影薄いからなー。いつもここたちと遊んでるよ」
「あ、おんなじクラスの。私、あんまり知らないから、ごめんなさい」
「良いのよ良いのよ。それよりうち上がってく?」
「え、う、ううん、ま、また今度」
いきなり家に上がるのは緊張してしまって断ってしまった。
「そ、じゃあまた今度おいで、晩御飯用意して待ってるから。お母さんが」
「あはは、きらなちゃんじゃないんだ」
「料理は苦手だからねー。じゃ、今度はたかしちゃん家行こっか」
「うん、でも、道わかんない」
「大丈夫、任せて、駄菓子屋ならわかるから」
きらなちゃんに引かれるようにして道を戻っていった。




