そんなことしていいの?
「え、えっと、確か、福田町だったかな」
お家が新しくなってからまだ住所を覚えてない。確か福田町だったはず。
「ええ! ほんと!」
きらなちゃんが私の肩をガシッと掴んで目をキラキラさせた。
「私も! 私も福田町だよ! じゃあ近所かもしれないね! すっごーい! 奇跡だ!」
きらなちゃんも福田町なんだ。どこだろ、どの辺りだろう。
「ねえねえ、たかしちゃん、今日一緒に帰ろ! 家教えて! 福田町ってちょっと広いんだけど、多分近所だよ!」
「うん! 私も、きらなちゃんのお家知りたい!」
「よし! 決まり! じゃあ帰り待っててね! 絶対だよ!」
「うん! 絶対待ってる!」
本日最後の授業が終わって、雲藤先生のホームルームも終わった。
体がソワソワする。私は帰りの支度をして、自分の席に座ったままきらなちゃんが来るのを待った。みんながどんどんと教室を出ていった。きらなちゃんが帰りの準備を済ませて席を立った。来る。
「たかしちゃん、お待たせ! さっ、帰ろっか」
「うん!」
私はきらなちゃんの後ろをついて歩いて教室を出た。階段を降りて、靴を履き替えて。あ、きらなちゃんの靴、星マークが付いていて可愛い。でも私の靴も可愛い。
履き替え終わったら、またきらなちゃんの後ろをついて歩いた。とても幸せな気分だった。人生で初めて、友達と一緒に下校をする。楽しくて楽しくて仕方がなかった。
「ねえたかしちゃん」
「は、はい!」
当たり前だけど急に話しかけられて緊張した。
「なんで後ろにいるの? 隣においでよ、話しづらいじゃんか」
「え、で、でも」
隣を歩くなんて、そんなことしていいの?
「ほら、おいでって」
きらなちゃんは私の手を取り私を右側に寄せた。
「ほら、話しやすい。ね、せっかくだし手も繋いじゃおー」
きらなちゃんは掴んだ私の手を離さなかった。どうしよう、絶対手汗がすごいよ、うう、恥ずかしい。
「帰り道こっちでしょー? 途中までは一緒だよね?」
「うん、こっちであってる」
女の子と手を繋いで帰っていることに恥ずかしさを感じて、周りの目が気になってしまう。辺に思われてないかな。大丈夫かな。
「ん? どうしたの?」
きらなちゃんはあっけらかんとしていて、何も気に留めていない様子だった。
「ううん、なんでもない」
そっか、きらなちゃんは友達だ。そのきらなちゃんがなんとも思ってないなら、大丈夫なんだ。そう思うと、だんだん手を繋いで帰るのも楽しくなってきた。
「きらなちゃんはすごいね」
「あはは、そうでしょうとも。私は凄いんだよ! 勉強もそれなりにできるしねー、運動だって得意なんだから!」
「すごい、本当にすごい」
「でしょー。でもずっとたかしちゃんに声かけられなかったから、あんますごくないや」
きらなちゃんは凹んでしまった。見るからに、私にもわかるくらいどんよりと。
「でも! 声かけてくれた!」
私はきらなちゃんを励ますように言った。そうだ。きらなちゃんは、いじめられている私に声をかけてくれたんだ。すごい、すごすぎる。私には、多分、出来ない。いじめられている人じゃなくて、ただ普通の人にも声かけられないもん。私はきらなちゃんに助けてもらったんだ。
きらなちゃんの手を握る手がぎゅっと強くなる。きらなちゃんの握る強さもぎゅっと強くなったのがわかって嬉しくなる。
「たかしちゃんはこっち引っ越してきたの最近なんだよね?」
「うん、だから、この辺はまだ通学路くらいしか知らないの。あ、でも二階がカラオケ屋さんになってる手芸屋さんと、文房具店なら知ってるよ。私、小さい頃おばあちゃんの家で暮らしてたから、その辺だけはなんとなく知ってる。あ、あと駄菓子屋さん。うちの家の並びにあるの。そこも知ってる」
「駄菓子屋さんってあの金子? 金子の駄菓子屋さん?」
「うん、金子さん」
「ええー! めっちゃ近所じゃん! 金子さんよく行くよ! たこせんが美味しいんだよねー。あそこたこ焼きも売ってるじゃん? たこ焼きをたこせんで挟んだやつ」
「すっごいわかる! たこせん美味しいよね!」
「金子さん、昔は関西に住んでて、関西の味なんだって!」
「へぇー、そうなんだ。でも関西弁じゃないよね?」
「なんか若い頃に関東に揉まれて関西弁じゃなくなったらしいよ」
「そうなんだ……。何があったんだろ……」
「さあ……?」




