あなたは本当は一人だよ
ぐしぐしと目を袖で擦って、泣いてたことがバレないように授業を受けた。
きらなちゃんはずっと机に向かって何かを書いていた。多分、自分のために何かしてくれてるんだ。友達が私のために何かをしてくれている。そう考えると嬉しくてたまらない。早く授業が終わってほしくて、全然授業が頭に入ってこない。
……でも、ちょっと待って?
こういう悪戯だったらどうする?
友達が出来ました。
楽しいね、なんて楽しいんだろう。
嬉しいな。
……でもね、それは全部嘘なの。
ぜーんぶ悪戯なんだ。
本当は友達なんてできてない。
たかしに友達なんてできるわけがないんだよ。
あなたは本当は一人だよ。
みたいな……。
だって、おかしいよ。今までずっと友達なんてできなかったのに、学校を休んで次の日、急に友達なんてできるわけないよね。
ああ、私ってなんて馬鹿なんだ、本当は友達なんて出来てないんだ。それなのに浮かれて、はしゃいで、嬉しがって。きらなちゃん、ううん吉良さんの思い通りだ。吉良さんは私を馬鹿にして、楽しんでるんだ。
今度は悲しくなって涙が出た。
やだなあ。帰りたい。
でも、抱きつかれた時の吉良さんは暖かかった、声も、顔も、暖かかった。
もしかしたら本当の本当に友達になったのかもしれない。
うう、どっちが本当なの?
友達が欲しい。信じたい。吉良さんを信じたい。だけど、今までのことを考えると、簡単には信じられない。授業が終わったら、分かるかもしれない。吉良さんは、私のところに来てくれると思う。その時に、聞いてみる……?
私は複雑な気持ちでずっと時計を眺めていた。ぐるぐる回る秒針に合わせて動く分針。時間がどんどん過ぎていく。遅い、早く時間が過ぎてほしい。吉良さんが本当に友達になってくれていることを祈りながら、時間を数えた。
授業なんて一切頭に入ってこなかった。なんの授業をしているかすら、わからなかった。
五十六……五十七……五十八……五十九……。
『キーンコーンカーンコーン』
時計の秒針を読んで、時間を数えた。ピッタリだ。うちのクラスの時計、ピッタリチャイムに合っている。すごい。
じゃなくて、授業が終わった。吉良さんがこっちにくる。と思う。
どっち、私にとってあなたは友達なの?
それとも、いじめっ子なの?
「たかしちゃーん」
きた。吉良さんがきた。私は返事が出来ず、俯いたままだった。
「たかしちゃん? どうしたの?」
「えっと、あの……」
吉良さんが私をいじめるために、私と友達になったふりをしていると思っている。なんて言えない。
どうしたらいい?
こういう時はなんて言ったらいい?
「吉良さん……」
「もう、吉良さんじゃなくてきらなちゃんでしょ? 授業受けてもう忘れちゃったの? たかしちゃんはおばかさんだなあ」
吉良さんは私の肩をぱすんと叩いて笑っている。
どっち?
吉良さんは本当に私の友達なの?
「吉良さん……」
「もう! きらなちゃん! きらなちゃんって呼んで!」
「き、きらなちゃん。私は、きらなちゃんのこと、お友達だって思っていいの?」
もう、これしかなかった。聞くしかなかった。だから、聞いた。そのまんま。
「そうだよ? なんで? 友達だよ? ほら見て、さっきの授業中、書いてきたんだよ」
そういってきらなちゃんが見せてくれたノートには丁寧にきらなちゃんのプロフィールが書かれていた。きらなちゃんの好きな食べ物、きらなちゃんの好きな飲み物、好きな音楽、好きな授業、きらなちゃんのいろんな好きと、反対に嫌いもたくさん書いてあった。
「きらなちゃん……」
これは、本物だ。ううん、もう本物じゃなくてもいい。もうきらなちゃんには騙されてもいい。それくらい、嬉しい。きらなちゃんのことがいっぱい書いてある。こんなことされて、嬉しくないわけがない。きらなちゃんは私の友達だ。絶対絶対、友達だ。
「ありがとう。ごめんなさい」
きらなちゃんのプロフィールが書かれた、私の友達ノートを抱きしめてお礼を言った。
「たかしちゃん、なんでしょぼくれてたの? 言える?」
きらなちゃんは私の頭を撫でながら言ってくれた。少し恥ずかしい、それに、酷いことを考えてたんだ。でも、きらなちゃんになら言えると思った。




