四人組の女の子が上から覗いていた
手芸店には針やら糸やら布やらがいっぱい売っている。
私に取っては宝の山だった。あれも欲しいしこれも欲しいし。見るだけで色々なものが作りたくなってくる。
でもだめだ、お小遣いには限りがある。今日はしゃーくんの材料だけを買って帰るんだ。
まずは大事な大事な布選び。ふわふわした布やツルツルした布、ジーンズ生地色々ある。私は普通のそれほどフサフサしていない灰色の布のロールを引っ張って、必要な大きさを切り出した。それから同じ材質の白の布も必要な大きさだけ引っ張り出して切り取った。
「でー、針と糸はあるから……お目目と綿かな」
ビーズコーナーでお目目になりそうなビーズを探す。これがまたいっぱいあって大変だ。
しゃーくんの切り抜きと見比べながらできるだけしゃーくんに似たビーズを探していると、目玉用の大きなパーツを見つけた。
「これピッタリかも」
あとは綿。綿は結構いっぱいいる。おっきいぬいぐるみにしたいからとりあえずいっぱい買った。四つも買った。
圧縮されて売られているからいつもどれだけなのかわからない。でも大丈夫。足りなかったらまた買いにこよう。
あ、あと型紙用の画用紙も買わなくちゃ。
「危ない危ない」
おっきな画用紙を取ってレジでお会計をした。お小遣いがなくなっていく。でもいいんだ。好きな事のために使うんだもん。この間みたいに壊されて仕方なく買ったりするんじゃない。
思い出して嫌な気持ちになった。
せっかく楽しいお買い物をしたんだから、もっと楽しもう。作ることを考えよう、楽しみだなあー。しゃーくん、上手く作れるかなあ。
裁縫をすることを考えながら私は店を出て止めてある自転車に向かって歩いた。買った荷物を自転車のかごに入れる。画用紙が大きくて、少し丸めてかごに入れた。
「あれ? あれたかしじゃね?」
「マジじゃん。なんでこんなとこにいんの? ヒトカラ?」
「ヒトカラとかウケる」
カラオケ店へ続く階段の二階あたりから声が聞こえてきた。見ると、そこには四人組の女の子が上から覗いていた。
「おーい、たかしくーん。なにしてんのー?」
上から呼ばれている。怖くてもうそっちの方を見ることが出来なかった。俯いて私は自転車に乗った。
「はぁ? あいつ無視して逃げる気だ」
「たかしくーん。どこいくのー」
「また明日楽しみにしててねー」
「次はどんな悪戯かなあ」
あっははは。
彼女たちは笑っていた。多分、彼女たちが犯人だ。彼女たちが毎日私に悪戯をしているんだ。顔、ちゃんと見なかった。せっかく犯人を突き止めるチャンスだったのに。逃した。怖くて見れなかった。でも、犯人が分かったとしても、私にはどうにも出来ない。でも、四人いた。一人じゃなかった。四人もいた。もしかしたらもっと多いのかも知れない。明日、学校に行きたくない。
自転車の向かい風がきつくて全然前に進まなかった。風が目に入って涙が出た。こうやっていじめをしてくる本人を目の当たりにすると、より恐怖を感じた。
早く帰りたい。早く帰ってお父さんに引っ付きたい。私は立ち漕ぎをして家に帰った。多分行きよりも十分近く早く着いた。
「ただいま」
私の気持ちは暗いままだった。休みの日に会うなんて、最悪だ。
「おかえり」
私の気持ちを見透かすように、お父さんが今から顔を出して迎え入れてくれた。
「お父さん!」
靴を脱ぎ捨てて、荷物を持ったまま私はお父さんに飛びついた。
「なになに。どうしたの」
「なんでもないの。なんでもないの……うううあああん」
泣いちゃった。やっちゃった。そんなつもりなかったのに。バレちゃう。学校でいじめられてるのがバレちゃう。でも、止まらない。
「よーしよし、大丈夫。お父さんもお母さんもいるよ。それにお婆ちゃんもいる。どうしたのか言ってごらん?」
「ううう、うう」
全然喋れなかった。涙と鼻水が次から次へと出て、止まらなかった。私はもう身に任せてワンワンと泣いた。多分すごくうるさいと思う。
「大丈夫たかしちゃん」
「よーしよしよし」
お母さんもお父さんも心配してくれた。多分お婆ちゃんも心配してくれてる。心が温かくなる。さっき傷ついた傷を埋めてくれる。お父さんも、お母さんもお婆ちゃんも大好きだ。
多分、三十分近く泣いていた。まだ涙が出て止まらない。お父さんの服が涙と鼻水でずるずるになっていた。




