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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと新しい学校
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もっと他に言うことがあるでしょ?

「手芸屋さん。ぬいぐるみ作ろうと思ってるの」

「そっか、たっちゃんぬいぐるみとか作るの上手だもんなあ。お父さんにはできないからすごいと思う」

「そんなことないよ。お父さんもやってみたら意外と簡単にできるよ」

「そーかなあ」

「そーだよ。じゃあ行ってくるね」


 お父さんと離れるのはちょっと寂しかった。私は昨日面倒臭くて手芸屋に買いに行かなかった自分を呪った。


 二階に行って部屋着からお外用の服に着替えた。お父さんに可愛いって言ってほしくてお気に入りのブラウスと黒のワンピースを着て、ちょっとおめかしをして、雑誌の切り抜きを手に取った。

 この切り抜きのキャラクターは『しゃーくん』っていう。サメのキャラクターで丸くて牙があって可愛い。最近のお気に入りだ。ハンマーヘッドのしゃーくんも可愛いけど、私はホオジロザメのしゃーくんが好き。

 今回は大きめのしゃーくんのぬいぐるみを作ろうと思っている。本物の鮫は怖くて見れないけれど、アニメに出てきたゆるキャラのしゃーくんはデフォルメが効いていてまんまる可愛い。グッズは売っているけれどぬいぐるみは高い。それにせっかくだからと思って自分で作ろうと思った。こういうキャラクターものは結構知っているけれど、私はしゃーくんが一番好きだ。しゃーくんのおかげで本物の鮫も、あんまり怖くなくなった。上手く作れるといいな。


「よし」


 財布としゃーくんの切り抜きを小さい肩下げのカバンに入れて、居間に降りた。お父さんに可愛いって言ってもらうためだ。


「いってきます」

「いってらっしゃい」


 お父さんが見上げながら言った。お母さんとお婆ちゃんもこっちを見ながら言った。


 それだけ?


 もっと他に言うことがあるでしょ?


 私はその場でくるっと回ってみせた。


「たっちゃんは今日もかわいいね」


 やった。お父さんありがとう。


「いってきます!」

「いってらっしゃい」


 私は自転車に乗って手芸屋さんに向かった。片道多分三十分くらい。前に一度お母さんと車で行ったことがあるからなんとなく道は覚えている。


 お父さんに可愛いって言ってもらえた。すごく嬉しい。


 お母さんとお婆ちゃんは言ってくれなかったな。私は顔は可愛くないけれど、可愛いお洋服を着てるんだから可愛いって言ってくれてもいいのにな。お母さんとお婆ちゃんにちょっとむっとした


 風が気持ちいい。いい天気でよかった。て言っても曇ってるけど。雨は多分降らない。予報では降らないって言ってたから。

 私は予報を信用してあげることにしている。その代わり予想が外れたら天気予報士のせいだ。天気予報士のせいにしたところで私がずぶ濡れになることには変わりはないけれど。いいんだ、だって天気予報士の人が頑張って調べてくれてるんだもん。疑っちゃあなんか悪い気がする。頑張れ米本よねもとさん。

 あ、米本さんってのは私がいるも見てるワイドショーの天気予報士さんだ。


 遠くの方でごろごろと音が聞こえる。


 米本さん。信じてるよ。


 手芸屋さんについた。上にはカラオケ店が引っ付いている。カラオケは行ったことがない。運動は苦手だけれど、歌はそんなに苦手じゃない。苦手じゃないけど人前で歌うのは恥ずかしいし、お部屋で一人で歌うのもそれはそれで恥ずかしいからあんまり歌わない。


 でも、友達と一緒にカラオケなんかは夢だなあ。


 まあいいや、お買い物お買い物。


 ちょっと暗くなった気持ちを吹き飛ばしながら手芸店に入った。

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