ずっとお休みだったらいいのに
日曜日、お父さんが久々の休みだった。十時過ぎになるとお父さんが起きてきた。
「おはよー」
「あ、お父さんおはよ」
私はお父さんが座るのを待った。まだかな。
「あれ? 天は?」
「天は野球だよ。多分六時くらいに帰ってくる」
私はそっけなく返事をした。
まだかなまだかな。
「そっか、お母さんコーヒー入れてくれる?」
お父さんが私の隣にあぐらをかいて座った。私はそそくさと立って、自分の飲み掛けだった紅茶をお父さんの前に置いた。
「よいしょっと」
私はお父さんのあぐらの上に座って紅茶を飲んだ。私はお父さんが大好きだ。すごくかっこいいと思う。お父さんが休みになるとこうやってお父さんのお膝の上に座る。時折お父さんは頭を撫でてくれる。これが、私はとても幸せな気分になれる。あったかい気持ちになれる。
あっ。お父さんが頭を撫でてくれた。しやわせ……。ずっとこうならいいのに。
「たっちゃんはいつまで経っても甘えん坊だなあ」
「そんなことないもん。お父さんがお休みの時だけだもん」
「中学生にもなってお父さんの膝の上に座る子なんていないと思うぞー?」
お父さんはちょっと茶化し気味に私に言った。へん、そんなの効かないよーだ。
「いいもん。私はお父さんの膝の上に座るんだもん」
とてもとても幸せだった。明日のことなんて考える暇もないくらい幸せだった。私もお父さんもずっとお休みだったらいいのにって思う。
「あちち」
お父さんは私が座っているからちょっと飲みにくそうにブラックコーヒーを飲んでいる。私はコーヒーは牛乳と砂糖をたんまり入れたやつしか飲めないからブラックコーヒーが飲めるのはとてもかっこいい。
「お父さん、次はいつお休みなの?」
「うーん、まだわからないなあ」
お父さんのお休みはいつも不定期で、月に一度あるかないかくらいだった。お仕事も私たちが学校から帰ってきた頃にしているから会う暇もあまりない。もっとお父さんとお話ししたい。
「毎週休みがあればいいのに」
「そーだなあ。難しいなあ」
「ねえ、お父さんはお仕事楽しいの?」
ずっとお仕事ばかりしていて楽しいんだろうか。私は学校楽しくない。
「楽しいぞー。仕事の内容ももちろん楽しいけど、それよりもお父さんが働けば働くだけ、たっちゃんも天も、お母さんもおばあちゃんも笑顔にできるからな」
お父さんは私を膝に乗せながら、笑顔でそういった。
「でも休みがないよ? 休みがなかったら寂しいよ」
「そーだな。確かし休みは少ないし、たっちゃんや天と遊ぶ時間は少なくて、それは寂しいけど。でも、たまーに休みにこうやってうんっと遊ぶからな。実はこんだけ少ない休みの方が貴重で、その分幸せに感じたりもするのかもしれないな」
お父さんは私の頭をわしゃわしゃと撫でながら言った。確かに、毎日お父さんがいたら、こんなに仲良しではなかったかもしれない。お父さんの休みの日は大切にしなくっちゃな。
「そうだ、たっちゃんは学校楽しいか?」
「が、学校?」
「転校して環境が変わっちゃっただろう? いじめられたりとかしてないか? 仲間はずれなんかにされてないか?」
うう……お父さんは全部知っているみたいに私に聞いてきた。どうしようかすごく迷った。今言ってしまえばお父さんが助けてくれるんじゃないかって、少し思った。
でも、私はお父さんに嘘をついた。嘘をつくのはすごく辛かったけれど私は「楽しいよ」って答えた。
「そうか、それはよかった。でもな、もし何かあったら、お母さんかお父さんかお婆ちゃんか、すぐに言うんだよ。無理しちゃダメだよ。いじめなんてものは頑張って耐えられるものじゃないんだから。お父さんは、いじめに立ち向かって頑張るたっちゃんを見るよりも、いじめから逃げてお家で笑顔を作るたっちゃんがみたいからね」
涙が出そうになった。お父さんなら本当にわかってくれるかも知れない。でも、お婆ちゃんはどうするの。お婆ちゃんに元気な姿を見せなくちゃダメだから。私はそれだけは、頑張らなくちゃいけないから。
「うん。でも大丈夫。学校、とっても楽しいよ。あのねあのね、りさこちゃんがね、面白いんだよ。私がりさこちゃんとお話ししてて、よそ見をするとね変顔するの。その顔が面白くって、変顔見たさについよそ見しちゃうの」
「そうかー、りさこちゃんに会ってみたいなあ」
「そ、それはどうかなあ。りさこちゃん習い事いっぱいしてるって言ってたから……」
お父さん、りさこちゃんなんて本当はいないんだ……。私に友達なんていない。心配してくれてるのに嘘ついてごめんね。私、頑張るから。
「ちょっとたかしちゃん、お父さんが食べづらいでしょ」
「いいんだもーん。お父さん食べれてるもん」
お昼ご飯も私はお父さんの膝の上で食べた。私は食べやすかったけど、お父さんはちょっと食べにくそうにしてて面白かった。
「よいしょっと。私、ちょっとお出かけしてくるね」
お昼ご飯を食べてしばらくお父さんの上で休憩してから私は立ち上がった。
「どこ行くの?」
お父さんが私のことを見上げながら聞いた。




