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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと新しい学校
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この人は何を言っているの?

 次の日、私は強い気持ちで教室に入った。


 カバンの中には昨日お母さんに借りた除光液が入っている。この除光液が私に強い気持ちを与えてくれた。


 机の中から椅子を引き出した。そこにはまだ『たかしは天才』と大きく書かれていた。でも大丈夫、私には魔法のアイテムがある。


 あ、今日、ポケットティッシュ持ってくるの忘れてる……。


 拭くものがハンカチしかない。花のワンポイントが可愛くてお気に入りの白いハンカチだ。でも、背に腹はかえられない。私はハンカチに除光液を垂らして文字を拭き取った。

 拭いたところから綺麗に消えていく。それに合わせてハンカチが少し黒く汚れていった。


 おばあちゃん、本当にすごい。


 私は楽しくなって文字を消した。文字だけじゃなく、椅子全体を綺麗に拭き上げた。椅子は、初めにあったように綺麗になった。もう文字は書かれていない。大丈夫。もう先生から隠さなくってもいい。私は立ち上がって椅子に座ろうとした。でも、立ち上がったところで一人の男の子にコソコソと声を掛けられた。


「ねえ、君、誰とでもやってるってほんと? 俺、先輩なんだけど、俺でもいける? 金なら払うからさ。君たかしっていうんだろ? 名前は変だけど俺は可愛いと思うんだよね。どう? いくら?」


 えっ、誰?


 この人は何を言っているの?


「ねえねえ、いいでしょ? いくら出せばやらせてくれんの? 俺お年玉貯めてたんだよね。一万? 二万? お金なら払うからさ。やらせてよ」


 やらせてって何?


 何をやらせてあげるの?


「ねえ、東京ではやってたんでしょ? 援交。援助交際」


 援助交際って、あの?


 私はそんなことしていない。この人は何を言っているんだろう。


 何を、何が起こっているの。理解できず、返事ができない。この人は、何を言っているの。


「もう何人もやってきたんでしょ? 汚いおっさんよりいいでしょ。俺じゃだめ? 金なら出すからさあ」

「あの、してません」


 小さい、聞こえるか聞こえないかの声で私は返事をした。


「え、なんて?」

「あの……。私、そんなことしてません。ごめんなさい」

「でも俺、してるって聞いたよ? 何? 二万じゃ足らない? じゃあ三万?」

「お金とか、そういう問題じゃないんです。そんなことしてません」

「じゃあ五万? それ以上はちょっと。それともおじさんの方が好きなの?」

「だから! 援助交際なんてしてません!」

「ばっ、声でけえって。くそ、もういいよ」


 自分のことを先輩だって言った男の子は走って教室から出ていった。私の視界の右側で、クスクスという笑い声が聞こえてきた。


 誰かの仕業なんだ。誰かが変な噂流して楽しんでるんだ。噂なんて、除光液じゃ消せないよ……。


 三時間目が終わった。おトイレに行きたい。

 いつも三時間目か四時間目が終わったあたりにおトイレに行きたくなる。やめてほしい。カバンに荷物を全部詰めて、逃げるようにしてカバンを持って私はおトイレにいった。いつも通り一番奥の個室に入る。スカートを上げて、パンツを下ろして便座に座る。少し便座がひんやりしていた。


 ドンドン。突然、目の前のドアが叩かれた。私は鍵が閉まっているか慌てて確認した。大丈夫、鍵はかかってる。外からは男の子の声がした。


「高橋さん。いるんでしょ。おしっこしてるとこ見せてよ。いいでしょ。お金なら持ってるからさ」


 おトイレしたいのにおトイレができない。目の前に男の子がいる。さっきとは違う男の子の声だ。トイレに行く私をつけてきたんだ。


「ねえ、開けてよ。いいでしょ」


 返事なんてできるわけがない。何度もドアを叩かれる。おトイレも、もう我慢できない。目の前に男の子がいるのに、おしっこが出てしまった。音を聞かれている。いやだ。死にたい。帰りたい。


「聞こえるよ! 今おしっこしてるでしょ。見せてよ。ねえ! お金なら払うから」


 ドアの下の隙間から千円札が半分顔を出した。


 私にくれるってこと?


 これで見せろってこと?


 お金をもらってもおしっこしているところなんて見せたくない。


 ドアの前にいる顔もわからない男の子が怖くて、トイレに閉じこもった。チャイムが鳴るまで私はトイレの個室に隠れていた。チャイムが鳴ると男の子は走って去っていった。

 ゆっくりと周りを確認してからトイレを出た。教室に戻るとすでに先生が来ていた。


「高橋、遅刻か? トイレならもう少し早く行きなさい。チャイムがなる前に席についているように」

「はい。ごめんなさい」


 私は三島先生に謝ってから席についた。


 男子の視線が怖い。私を狙っているような気がして鳥肌が立つ。女子の笑い声も聞こえてくる。辛い。なんでこんな目に遭わなくちゃいけないの。


 それからは誰も私に話しかけに来なかった。帰りのホームルームが終わって帰路に着いた。今日、私に迫ってきた男の子は二人だけだった。明日も誰か迫ってくるんだろうか……。


 あ、そっか。明日は土曜日でお休みだ。よかった。月曜日には同じ悩みを持つことになるけれど、ひとまずは安心した。

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