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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと新しい学校
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だけれど外はすごく曇っていた

 今度は外行きの服に着替えてから私はまた昨日のタツタ文房具店に向かった。

 昨日と同じように中には可愛い文房具がたくさん置いてある。

 昨日買ったペンケースは中がインクで汚れているけれど、まだ使えるから買わなくていいや。それからシャーペンたちだけど……。


 私は味気ないなんの柄も付いていない一番安いもので筆記用具を揃えた。可愛いのを買い揃えてまた壊されたらまた悲しまないといけない。

 愛着のない文房具たちなら、壊されても悲しまなくて済む。いいんだ、使えればなんだって。


 家に帰って、私は買ってきた筆記用具を汚れたペンケースの中にしまった。もう壊されたくないなあ。


 お小遣いがどんどん無くなっていく。どうしたら壊されないんだろう。


 私はしばらく考えた。


 ……そうか、ずっと持っていればいいんだ。


 トイレに行く時も、カバンを持って行けば悪戯されることはない。そうだ。それがいい。


「たかしちゃーん、ご飯よー」


 妙案が閃いたところでお母さんに下から呼ばれた。


「はーい」


 隣の部屋から飛び出していく天の気配を感じた。私はご飯を食べるため軋む階段を下に降りた。


 今日、私はぐっすり眠れた。いじめを回避する妙案が思い浮かんだからだ。


 なにか、いじめっ子に勝ったような、そんな気持ちになった。




 翌日は、清々しい朝だった。


 だけれど外はすごく曇っていた。


 大丈夫だ。私は強いんだ。逃げ方もわかった、もういじめなんかに屈しない。


「よしっ」


 校門をくぐるとき、私は小さくガッツポーズした。


「えっ?」


 教室に入って自分の席を見ると、床の上が土だらけだった。


 なに?


 どういうこと?


 理解できなかった。


 私の机の周りだけが何故か土だらけで、汚れていた。

 周りの机は全然綺麗だ。


 何、どういういじめなの?


 私は分からないまま教室の後ろにある掃除用ロッカーから箒とちりとりを出して机の周りを掃除した。机の周りはすぐに綺麗になった。


 なんだったんだろう。


 よく分からないまま床は綺麗になってしまった。私は席についてカバンを机の横にかけてペンケースを出して机の中に仕舞おうとした。


 でも、それはできなかった。


 机の中にはもうすでに何かが入っていた。


 なに?


 私は屈んで机の中を覗いた。驚いたことに机の中は、湿った土でいっぱいだった。


 何をされているのか、一瞬理解に苦しんだ。でも、これが今日の意地悪なんだと理解すると、悲しさが込み上げてきた。


 机なんて洗うことができない。私はゴミ箱を持ってきて、手で湿った土をほじくりゴミ箱に入れた。腕を捲って、セーラー服が汚れないようにして、何度も何度も土をほじくり出した。

 何度もやっていると、机の壁に到達した。それからしばらくして全ての壁が見えたけれど、でもこれ以上綺麗にはできない。できる限りの土を机から取り去って捨てたけれど、人間の手では限界があった。机の中はまだまだ砂だらけで、もう机の中を使うことが出来なくなった。


 絶対無理だけど、水でバシャっと洗ってしまいたい。


 土が入って重たくなったゴミ箱を教室の後ろに戻して私は席に戻った。

 私が来るずっと前から学校に来て、机の中に土を詰めたんだ。誰が、誰がこんなことをするんだろう。あの金髪の、吉良さんだろうか。そもそも一人だろうか。一人でこんな大掛かりなことできるだろうか。じゃあ二人なんだろうか。それとも三人。

 怖い。次、何をされるか分からない。私は今後、何をされるんだろう。


 まだこの学校に転校してきて二週間も経ってない。卒業するまではまだあと何十週間もある。その間に私は何をされるんだろうか。


 そう考えると、すごく恐ろしかった。


 四時間目が終わり、私はまたおトイレに行きたくなってしまった。学校でおトイレに行きたくなってしまうのは何故なんだろう。仕方ないからカバンの中にペンケースやノートをしまって、カバンを持っておトイレに行った。よし、これで悪戯をされる事もない。大丈夫。


 教室に戻り自分の席に座ろうして椅子の座面に文字が書かれていることに気づいた。


『たかしは天才』


 私の椅子の座面には、油性マジックで確かにそう書いてあった。


 私は持っていたハンカチで必死に消そうとしたけれど、全然消えなかった。濡れてないからかと思って、教室の外にある水道でハンカチを濡らしてきたけれど、全然ダメだった。油性ペンは消えないから凄いんだ。


 私が困り果てていると、チャイムが鳴ってしまった。先生に怒られる。と思いながら、私は席についた。


 ……あれ?


 これ、私が座っている間は誰にも見えないんだ。ということは、授業中、先生にバレることはないってこと?


 あっ。席を立つ時、帰る時、椅子は机の中に仕舞う。そしたら座面は見えないんじゃ。それに、見つかっても怒られるのは私だ。だって『たかしは天才』って書いてあるんだもん。

 内容は悪口じゃない。自分への褒め言葉だ。いつバレるか、ドキドキしながら私はこの座面を隠し続けないといけないんだ。心臓がドキドキした。先生に怒られるのは嫌だ。でも、文字は消せない。隠し切らないといけないんだ。ひどい悪戯だ。


 おばあちゃんなら、油性ペンの消し方知ってるかな。おばあちゃんは意外となんでも知ってる。この前、今人気の四人組アイドルグループ『おはよう女子』のメンバーの名前を全員知っていた。十人以上いるし、私ですら覚えていないのに。


 帰ったら聞いてみよう。こんな状態の椅子で毎日を過ごすのは絶対嫌だ。


 残りの授業、私は椅子に座っているから座面のことは先生にバレなかった。


 帰りのホームルームが終わって、先生も誰もいなくなるまで待って、ゆっくりと机の下に椅子を隠した。


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