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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと新しい学校
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私は独りなんだった

「高橋さん、ちょっと手伝ってくれる?」


翌日の一、二時間目の体育が終わった後、私は晴井はれい先生に呼ばれて、授業で使ったバレーボールの片付けを手伝った。ボールのいっぱい入ったカゴを押して体育倉庫に持っていく。


「高橋さん、体育苦手でしょう」

「は、はい。運動は苦手で……」

「いいのよ。大丈夫、苦手でも一生懸命なのは伝わってくるから。先生はわかってるから、今まで通り頑張ってね」

「は、はい。が、頑張ります。よいっしょっと」


 カゴを押して体育倉庫の入り口の段差を乗り越える。体育倉庫の中は埃っぽかった。カラーコーンやマットレスや綱引きに使う綱なんかが置いてあって、サッカーボールのカゴの横にバレーボールのカゴを持っていった。


「はい、手伝ってくれてありがとうね」

「はい。し、失礼します」


 井本先生は運動神経が良くて、ポニーテールが格好良かった。先生みたいに運動ができたらいいなあ。なんて思う。バレーボールでも、飛んできたボールから逃げちゃう私とは大違いで、綺麗にボールを上に上げるんだ。


 私もあれぐらいできたらなあ。


 なんて考えながら教室に戻る。


 先生のお手伝いをしたから少しいい気分で階段を軽快に登った。


 また頼まれたら頑張ろ。


 体育は隣のクラスと合同で、女子が二年A組、男子は二年B組で着替えることになっていた。A組の後のドアから教室に入るともう殆どの生徒が着替え終わっていた。


 私の机の上に置いてあった私のセーラー服が消えていることにすぐ気がついた。


 私は席に急いで戻って机の中を見た。だけどそこにはない。後の私のロッカーの中にもない、先生の教卓の中にもないし、ありえないけれどと思いながら覗いたゴミ箱の中にもなかった。


 私のセーラー服はどこ?


 周りの生徒を見渡した。話しながら笑っている生徒、私と目が合って目を逸らす生徒、明らかに私のことを知らん顔をしている生徒。みんな敵に見えてくる。


「私のセーラー服を知りませんか?」


 なんて、私には聞けない。私にそんな勇気はなかった。だって、答えてくれるかどうかわからない。知らないって言われたらどうするの。話しかけないでって言われたら……。そっか、今知らんぷりしてる人たちがそもそも教えてくれるわけないんだ。私は独りなんだった。


 授業が始まるチャイムがなるまで私は教室中を探し回った。セーラー服を探している後から笑い声がたくさん聞こえた。でも、探すことだけはやめなかった。だけど、残念なことに私のセーラー服が見つかることはなかった。セーラー服が無い。隠された。着替えられない。このままじゃ体操着のまま授業を受けないといけない。


 流石にきつい。泣きそうだ。


 チャイムが鳴って、仕方なく席についた。


 増町ますまち先生が入ってきて数学の授業が始まった。


「高橋さん、どうしたの。まだ着替えていないじゃない」


 案の定増町先生に体操着のままなことを指摘されてしまった。


「えっと、えっと」


 なんて答えていいか分からない。セーラー服を探すのに必死で、言い訳なんて考えてなかった。『セーラー服がありませんでした』そんなこと言ったら大問題だ。クラスで話し合いになって雲藤先生も出てくるだろう。そうしたらお母さんたちにも伝わってしまう。それだけは絶対に嫌だ。


「お、お腹が痛くて、おトイレに行ってたら、着替える時間が無くなっちゃいました」


 私はまた嘘をついた。今度は先生にまで。悪いことだ。だけど、こうするしかなかった。嘘をつかないとバレてしまう。私がいじめられていることが、お母さんたちにバレてしまう。だから、仕方ないんだ。ごめんなさい、先生。


「そうなの……。今回は仕方ないけれど、次からは間に合うようにしなさいね。それからまた後でちゃんと着替えておくように」


 先生は私から目を逸らして授業を始めた。


 ふぅ……。良かった。怒られなかった。


 セーラー服、どうしよう。この後の授業でも、怒られるかもしれない。早く見つかって欲しい。私のセーラー服……。


「痛っ」


 ペンケースからシャープペンを取り出そうとして何かが指先に刺さった。シャーペンやボールペンの先じゃない、もっと鋭利な何かが指に突き刺さって血が出た。


 なに?


 ペンケースの中を見れば、一目瞭然だった。また、私のペンケースの中はメチャクチャにされていた。昨日買って、まだ家で一回しか使っていない筆記用具たちがバキバキに折られていた。

 定規やサインペンなんてまだ一度だって使っていない。昨日買ったばかりの、可愛いクマの筆記用具たち。それが全て折られている。


 今日は、どうやらセーラー服を隠されるだけじゃなかった。


 てっきり、嫌がらせは一日一個までだと思っていた。

 でも、一日一個じゃなかった。二個も三個も嫌がらせをされた。私の感情は耐えられなかった。


「う、ううう」

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