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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと新しい学校
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今日も何もなかったんだよ

 今日の晩御飯は餃子だった。机の上には中華スープと餃子とサラダが並んでいた。お母さんに白ごはんをよそってもらって、みんなでいただきますをした。


「今日はどうだった?」

「うん! 楽しかった!」


 天が白ごはんをかきこみながら返事をした。


「天ちゃん? 食べるときは食べる、しゃべるときはしゃべる。わかった?」

「はーい」


 と言いながら餃子を頬張った。天は全然人の話を聞かないなあ。


「たかしちゃんはどうだった?」


 どきりと心臓が跳ねた。大丈夫、今日も何もなかったんだよ。お母さん。


「あのね、ちょっと数学が難しかったかなあ」


 嘘をついた。いいんだ。嘘をつき続けるって決めたんだ。


「そっか、勉強も中学校になると大変だねえ」

「うん、大変。この後も明日のために予習しないと」

「たかしちゃんは偉いねえ」


 おばあちゃんが頭を撫でながら私を褒めてくれた。嬉しい。心があったまった。おばあちゃんは大丈夫かな。大丈夫なのかな。おばあちゃんを見るとおばあちゃんはニコッと笑った。なんだか大丈夫なような、でもそうじゃないような気がして、慌てて私は餃子を一口で頬張った。


「ごちそうさまでした」


 今日も私が最後まで食べていた。みんな食べるの早いなあ。私ももっと食べるの早くなりたい。いつも休み時間最後まで私が一人で給食をたべている。みんなが食べ終わり始めると、今度は周りの目が気になってもっと食べるのが遅くなる。別に休み時間が潰れるのはいいんだけど、みんなの目線がやっぱり嫌。できるだけ静かに一人でご飯を食べたい。


 お茶碗とお皿を持って流しに持っていく。お母さんがもうすでに洗い始めていて私は横から食器を流しに置いた。


「たかしちゃん」


 食器を置いてキッチンを去ろうとした私にお母さんが声を掛けてきた。


「なに?」

「大丈夫? 何か困り事とかない?」

「えっ?」


 びっくりした。ガシッと心臓を掴まれたような気がした。できるだけ平静を装って、返事をした。


「だ、大丈夫だよ? どうしたの?」

「ううん、なんでもないの。勉強がんばってね」

「うん。ありがとう」


 心臓がバクバク言っている。嘘がバレたかと思った。大丈夫。バレてなかった。私はなんだか急がなくちゃいけない気がして、慌ててお風呂に入った。


 お風呂に入ったら自室に戻っていつもの勉強する。お母さんの呼びかけが脳裏に浮かんでは消えていく。大丈夫だよね。バレてないよね。だって、今日だって昨日と同じだった、一昨日と同じだった。何にも変わらない。私は巧妙に嘘をつけているはずだ。だって今日まで何にも言われなかった。お母さんにも、おばあちゃんにも。天はどうせ私の話なんて聞いてないだろうけど。


 ダメだ。集中できない。今日の宿題だけ終わらせて、寝よう。うん。早く寝ちゃおう。そうしよう。


 次の日。いじめられないか心配していたけれど、三時間目が終わるまでは何事もなかった。ずっとドキドキしながら、何かされるんじゃないかと思っていたけれど、誰も何もしてこなかった。いつもと同じ、誰も私に関わろうとしない。先週と一緒で私は独りだった。


 三時間目が終わり、あまり行きたくないけれど、どうしてもおトイレに行きたくなって、おトイレに行った。昨日のことが脳裏を通り抜ける。教室に帰ったら、ノートに落書きをされていた。

 今も、おトイレに行っている間に何かされているかもしれない。クラスメイトのことを疑いすぎかもしれないと思ったけれど、やっぱり心配で、できるだけ急いでおトイレを出た。


 教室に帰ってきたら、また少し雰囲気が違った。何かあったんだなって一目でわかった。


 やっぱり……おトイレなんか行かなければよかった。


 とはいえおトイレを我慢して、教室でお漏らしをしてしまったら、それこそ大変だ。トイレに行くのは仕方のないことだ。そう思うしかない。


 とはいえ席に戻っても、特に何もなかった。机の上には何もないし、カバンの中に悪戯された形跡もなかった。なんだ、私の気のせいか。気にしすぎだ。昨日、あんなことをされたからって、今日もまた何かをされるわけではない。


 馬鹿だなあ、私は。今日は何にもないんだ。昨日だけが特別だったんだ。


 数学の授業が始まって私は机の中から可愛い黒猫が描かれたピンク色のペンケースを取り出した。数学の問題を解くために、ペンケースのジッパーをジィッと開けて中からシャーペンを出そうとして、気が付いた。


 筆箱の中がメチャクチャになっていた。


 メチャクチャなんて簡単に言ったけれど、ペンケースの中にある筆記用具という筆記用具が全て折られていた。

 シャーペンはもちろんボールペンに蛍光ペン。定規に消しゴム何もかもが折られていて、ペンケースの中は蛍光ペンやボールペンのインクでグチャグチャに汚れていた。

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